ライルとセリィナのその後。おまけ話
号泣しながら邪魔してくるアバーライン公爵をなんとかおさえこみ無事に結婚し夫婦となったライルのセリィナ。ふたりはとにかく甘く幸せな結婚生活を送っていた。双子の女の子にも恵まれ、子どもたちが優しい両親の元ですくすくと育っていた頃……。
「「これ、なぁに?」」
最近やんちゃになってきた見た目がセリィナにそっくりな双子がどこからか古びた小箱を持ってきたのだ。
「あら、見たこと無い箱だけど……どこから持ってきたの?」
「倉庫の金庫の中にあったんだよ」
「探検してたら見つけたの。金庫の鍵が壊れてたから宝さがししたの」
古びてはいるが頑丈そうな小箱にはしっかりと鍵がかかっている。まるで宝物を大切に隠しているかのようだ。
「倉庫の金庫……もしかしたら子爵家の御先祖様のものかしら?」
セリィナがライルの婚約者となり結婚してかなりの年月が経つが倉庫の管理などは主にライルがしてきたのでセリィナにも詳しいことはわからず首を傾げた。義理の父母であるディアルド子爵夫妻に聞いてみてもいいが……もしかしたらライルの私物かもしれないと直感が働いた。
結婚して子供が産まれてからもセリィナを溺愛するライル。まだおねぇ言葉が抜けきらずセリィナとふたりきりになるとつい出てしまうそうだが、子爵当主としてみんなから慕われる私の旦那様だ。三十路をとっくに過ぎたのにいまだ漂うあの色気にロマンスグレーが加わったらどうなってしまうのか。とにかく美しいのひと言につきる。パーティー会場でライルの流し目に思わず気絶する令嬢が続出するので妻としては悩みどころではあるが。(ライル自身は「セリィナ以外は視界に入ってない」と流し目疑惑を全拒否している)
「おとーさまに開けてもらおう!」
「おとーさまなら開けれるよね!」
「あ」
セリィナが思考を巡らせている間に双子たちは小箱を持って走り去ってしまった。
“もしかしたらライルの隠している秘密かもしれない”と疑惑が浮かび、セリィナは不安になった。出会った頃からずっとセリィナを大切に愛してくれているライルを疑うわけではないが、ライルはあんなに格好よくて綺麗で頭も良くて気がきいて……妻子持ちだというのにモテモテなのだ。もしあの小箱の中に、誰かとの思い出の品が隠されていたとしたら……。
「……私のライルにちょっかいかけてきてる女なんかがいたら、ライルとその人の命が危ないわ……!」
公爵家の両親と双子の姉によるセリィナへの溺愛はいまだ健在であるとだけ伝えておこう。もしもの事があれば子爵であるライルと愛人の存在なんて片手でひねるように消し炭に出来るだろう……いや、あの父や姉たちならば確実にやる。セリィナはそう確信していた。
「ま、まってぇ~!」
ライルに限って浮気や愛人などあり得ないが、もしも誤解されるようなものが入っていてそれが露見すればライルの生命が終わってしまう。と、セリィナは慌てて双子たちを追いかけたのだった。
***
「やだ、みつけちゃったのぉ?」
双子たちが持ってきた小箱を見て、ライルの口からは思わずおねぇ言葉が飛び出ていた。
「これ、おとーさまの?」
「おとーさまの?」
愛する妻に瓜二つの愛する娘たちのキラキラした瞳にライルは口元を緩める。この子たちが産まれた時、自分の赤い髪が遺伝しなくて本当に良かったと思ったものだ。そして宝物が増えた事に神に感謝した。
「……そう、これにはお父様の大切なものが入ってるんだよ」
中身が見たいとせがむ双子に「しょうがないなぁ」と引き出しからちいさな鍵を取り出した。
カチリ。と音を立てて小箱の蓋を開くと、中からは1枚の布切れ……少し色褪せたハンカチが出てきたのだ。
「……ライル、それ」
遅れて部屋にやってきたセリィナが見たのは、その昔セリィナがライルに贈るために刺繍したあのハンカチだった。
「……実はロナウドさんがこのハンカチの事を教えてくれて、貰ったんだ。セリィナが見たらあの頃の辛い記憶を思い出すかもしれないからって秘密にしてたんだけど……アタシ……僕の宝物」
そういえばあのハンカチの行方などすっかり忘れていた。まさかライルの手に渡っていたなんて思いもしなかったが、ロナウドがライルに渡していたのにもかなり驚いてしまった。
「私ったら、てっきり私以外の誰かとの思い出でも隠しているのかと……」
「そんなことあるわけないでしょぉ?!」
それからしばらくの間、ライルに「まだアタシの愛が足りないからそんな妄想するんだわ」とめちゃくちゃ甘やかされました。
【完結】悪役令嬢とおねぇ執事 As-me.com @As-me
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