番外編 その後の物語
あれからセリィナとライルは正式な婚約者となり、色々な邪魔(主にセリィナ側の父親とか姉たちとか)をされながらも愛を育んでいた。これは、それから2年後の物語……。
これは、17歳になったセリィナと25歳になったライルの物語である。
***
「セリィナ様、十七歳の誕生日おめでとう」
真っ赤な薔薇の花束を手渡すと、今日の主役であるセリィナ様は頬を染めてニコリと微笑む。
「ありがとう、ライル」
最近のセリィナ様は綺麗になった。
いや、元々めちゃくちゃ可愛かったし、今もとんでもなく可愛いのだが。
なんと言うか……大人の女性になってきた気がする。
アタシがセリィナ様の専属執事から離れたものの、色々あって婚約者となったあの日の事を思い出す。
やっと出会えたという気持ちを抑えきれなくて抱きしめてキスをしてしまった。おねぇ言葉や仕草は抜けなくてもやはり自分も男だったのだと改めて自覚した瞬間でもあったが、愛しくて仕方がないのだから許してほしい。
セリィナ様とはかなり歳の差があるし、今は子爵令息となれたのだがアタシは元々は孤児で執事だった身の上だ。なによりセリィナ様は公爵令嬢である。孤児の執事から運良く子爵令息になれたが、それでも通常なら身分差が問題になるだろう。
「……セリィナ様、そのドレスとっても似合ってるわ」
「ほんと?嬉しい!実はマダムに相談してドレスを作ってもらっていたのよ」
そう言って翻したドレスは、黒とグレーを基調としたシックなドレスだった。
なぜそんな色かなんて、聞かなくてもわかる。#今__・・__#のアタシが黒髪に灰色の瞳だからだ。
無垢な笑顔で新しいドレスを翻すセリィナ様は幸せそうに笑ったが、アタシは多少の申し訳なさを抱えていた。もちろん今のドレスもセリィナ様にとても似合っているが、年頃の令嬢ならばもっと明るい色のドレスを着たいものではないのか。そんなふうに思ってしまう。それこそ執事時代は流行りの色やドレスの形、セリィナ様が陰口を叩かれないように色々と調べたものだ。
もちろん、セリィナ様がアタシの色のドレスを着てくれているのには意味がある。セリィナ様がアタシの婚約者だからだ。世間的にはキズモノで訳ありのセリィナ様をアタシが義務的に婚約者に迎えた事になっているからでもあるが。
……それでも、単なる執事でしかなかったアタシがセリィナ様の婚約者になれたことは奇跡だ。ずっと秘めた想いは持っていたが、叶う事は無いと思っていた。ただ側にいれればいい。そう思っていたのに……。
今更だけど、やっぱり自分は“男”だったのだと再確認する羽目になるなんて思いもしなかった。セリィナ様に、“男の欲”をぶつける日がくるなんて……。
***
婚約者となってから約2年。まさか、こんなことになるなんて……。
セリィナ様の17歳の誕生日。パーティーは盛大におこなわれ、アタシもセリィナ様の成長した姿を見守っていた。正色な婚約者となってからは我慢しきれずについ唇を奪ってしまう日々だがセリィナ様が可愛過ぎるのがいけないのだと思う。もちろん毎日抱き締めて撫で回してキスをしてしまうアタシが悪いのだが、その度に毎回照れまくった可愛らしい反応をされるので我慢するのも限界なのである。
“ひたすら可愛く、愛でる存在”。アタシにとってセリィナ様はそんな存在でもあった。(キスしただけでとある一部からは殺気がとんでくるし)
でも、その誕生日の夜……そんな認識が一変することになるなんて考えもしなかったのだ。
「……ライル。私ーーーー」
頬を薔薇色に染め、潤んだ瞳をアタシに向けたセリィナ様はもう何も知らない少女ではない。そう理解した瞬間。アタシは“男”に変貌したのだ。
ベッドの上で、少し透けた薄い布を身に纏ったセリィナ様は潤んだ瞳をしてアタシを迎えた。いつのまにか魅惑的な膨らみを主調してきた体と、恥ずかしがりながらも大胆な行動に出ようと決意した瞳。いくら“おねぇ”だからって、アタシだって我慢出来ない範囲ががあるのだと自ら思い知る羽目になってしまったのだった。
いつになるかわからない(主にセリィナ様の親や姉が原因)結婚だったが、それでも許されるまで我慢しようと思っていたのに……。これはどれだけ嫌味を言われるか、または無理難題をふっかけられるかお説教コースか……。あぁ、それでも今は幸せ過ぎるからどうしようもないのだが。
「ライル……大好き」
「……アタシもよ。きっとアタシは、世界で1番幸せなオトコだわ」
汗で張り付いた前髪を指で拭い、セリィナ様の頬を撫でる。もちろんセリィナ様が“ハジメテ”の相手だがここは年上の“オトコ”として堂々としていていたのは、やはり“オトコ”のプライドだろうか。
“ハジメテ”の痛みに耐え、そのまま眠りについたセリィナ様の姿が愛おし過ぎて混乱しそうだ。
好き。絶対離したくない。
好き過ぎてどうしよう。そう思うくらい愛している。結婚式前にそんな関係を持ってしまった罪悪感は多少あるが、もしも他の男に奪われたら……その時はどうなるか責任は持てないだろう。もちろん破滅させるの一択だが。
「……セリィナ様……ーーーーセリィナ、愛してる」
「ライル……大好き。ワタシも愛してるーーーー」
こうしてアタシたちは体も心も結ばれた。
好きで好きで……好きすぎる相手に、身も心も溺れたアタシの未来なんて誰にでも想像出来るだろう。
ただひたすらに幸せだった。それだけである。
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