第7話 魔法陣の完成

 ユーグの家では、今朝も叔母さんが出迎えてくれた。


「いらっしゃい。わざわざありがとうございます。

 お母さんは食事を終えて、応接間で待ってますよ」



 挨拶をして、二人でさっそく支度を始める。

 お母さんは、わたしたちの様子をにこにこと見ていたわ。




 お母さんが飲んでいる薬は、ユーグが言ったように粉だった。

 濃い緑色の、塩よりもちょっと大きめの粒ね。よくある、植物エキスを粉状にしたものじゃないかしら。

 大抵苦いのよー。中には、すごく苦くて、飲み込むのに涙が出るものもあるわ。



 昨日清書した魔法陣の上に、薬とコップに入った水と皿を置き、ほんの少し魔力を通す。


 水が皿に移り、細かく分かれた。その中に小さくまとまった薬が飛び込み、水にくるりと包み込まれる。

 動きが止まったときには、皿の上にいくつかの水の塊ができていた。くっつかずに、ぷにぷにしている。

 中に緑色の薬が見えている。



「母さん、噛まないで飲んでみて。

 つまんでもいいし、スプーンでもいいよ」


 お母さんは不審な顔をしていたが、一つを指でつまんで口に入れた。喉がこくんと動く。


「苦くない!」

 お母さんは、そのまま全部飲んでくれた。


 成功よ!



「どう? これなら薬、飲める?

 もっとこんなのがいいっての、ある?」

 嬉しそうに顔を輝かせながら、ユーグはお母さんに聞いている。嬉しすぎて言葉が途切れ途切れになっているのが珍しわね。


「もう少し小さければ、お皿ごとスルスルって飲めそう」

 お母さんは、改良するところを教えてくれた。


 やっぱり、使う本人の意見は貴重ね。

 なるほど。そういう飲み方もあるのね。

 一つずつ飲む必要はない。細かければ、水を飲むようにまとめて飲み込むこともできる。うん、確かに。


「それも作りましょう」

 ユーグもこくりと頷いてくれた。




 お母さんと叔母さんは部屋を出ていった。

 わたしとユーグは応接間で、そのまま魔法陣を組み立てたの。



 もっと細かくすると、今のままでは水の量が多くなってしまう。水の層の厚さをずっと減らしたい。


 あっちを変えたり、こっちを入れ替えてみたり。できた魔法陣を実際使ってみて、また組み替えて。

 なんとか魔法陣ができたところで、昼食の時間になった。




 ユーグの家でいただいたお昼は、おいしかった。野菜が新鮮だったというと、家庭菜園があると教えてくれたの。

「簡単なものだけだけど。母さんに新鮮な野菜を食べてもらいたいから」

ユーグは照れ臭そうだった。

 叔母さんがたわいもない話をして、食卓を賑やかにしてくれてたわ。


「こちらは、リュシーさんにいただいたものですよ」


 今日は、午後までかかりそうだと思ったから、昨日のうちにパウンドケーキを焼いて持ってきたの。レモン風味とナッツ入りの二本。

 これなら翌日でも味は落ちないし、数日は楽しんでもらえるもの。


 彼の瞳がキラキラした。お母さんの瞳も輝いている。

 よかった、喜んでもらえて。


 和やかに昼食は終わった。




 昼食後は、昼までに改良した魔法陣の確認ね。


 ユーグが薬をセットした。

「ここに魔力を流してみて」

 彼の指示で、お母さんが魔力を流した。


 水と薬が動いて、薬が水に包まれた。小さな透明のつぶつぶがいっぱいできて、その中に緑の薬が見える。


「はい」

 ユーグが差し出した皿を、お母さんが今度は躊躇いなく受け取り、するりと飲んだ。


「やっぱり苦くないわ」

 お母さんは嬉しそうだった。



 わたしはユーグと両手の平を合わせて叩き合い、「やった!」と叫んだ。

 彼と声が重なったわ。気持ちも重なった気がして、すごく嬉しかった。

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