第6話 彼氏疑惑

 昨日は制服でそのままお邪魔したけれども、今日はどうしよう。

 勉強の一環だから、地味な格好がいいよね。


 わたしは、淡いピンクのシャツブラウスに紺色のフレアスカートを合わせた。髪も邪魔にならないように編み込んで、後ろで紺色のリボンで一つにまとめてある。

 ちょっとだけお化粧もした。気分がのったからよ。



 朝食を食べて支度をし、玄関まで出たわたしの後ろを、母と兄とおまけに父までがぞろぞろとついてきた。


「出てこないでよ」

「おまえの彼氏を見るチャンスを逃すはずがないだろう」

 にやにやする兄の横に、

「なんてご挨拶すればいいかしら」

とそわそわする母と、仏頂面した父がいる。



「宿題やりに行くだけだから」

「だって、彼氏じゃなくたって、あなたの初めてのお友達よ。

 ほらほら、あなたもそんな顔をしないで」

 母は父に声をかけてくれている。


「だけって言いながら、おしゃれしているよな」

 兄が追い討ちをかける。



 昨晩、友人の家で宿題をしたと言ったら、大騒ぎになったのよね。


 母は「やっと娘にも友人が」と泣いて喜び、兄には「どこのどいつだ」と男子だということを白状させられ、そのあげく父には「まだ嫁にはやらん」と勘違いな発言をされたわ。



 昨日は家の前で馬車を停めてもらい、家にはわたし一人で入ったから、ユーグと家族は会わなかったの。

 だからなのかしら。今、門を開けて家族総出でユーグの到着を待っている。

 はぁ。恥ずかしい。




 馬車が家の前に停まった。

 馬車から降りたユーグは、居並ぶ家族に一瞬顔を引き攣らせたけれど、すぐに頭を下げた。


「はじめまして。リュシーさんの同級生のユーグ・マイヤールです。

 リュシーさんにはこの度お世話になりまして。

 今日も手伝いをお願いしたいのですが、よろしいでしょうか」


 顔を上げた彼は、一気にまくし立てた。


 ほんのすこし頬が赤い。かわいい。



「まあ」「へぇ」「ふん」

 母と兄は、好感が持てたようだ。父は昨日から拗ねているからこんなもの。


「はじめまして。リュシーの母です。

 こんな娘ですが、どうぞどうぞ。いくらでも使ってやってください」


 こんな娘とは失礼な。だが、にこにこと笑ってくれているから、いっかー。



「いってらっしゃい」

と、母と兄と、不貞腐れた父に見送られて、わたしは馬車に乗った。


「リュシーちゃん、面食いね」

と母にこっそり言われるのは、帰宅後の話。


 はい、おまけに声フェチです。とは言わぬが花。




「ごめんね、うちの家族がうるさくて」

「いや、こっちこそ騒ぎにさせてすまない」

 今朝のこいつもいい声だ。すぐ側で話をされるとうっとりとしてしまう。



「リュシーの私服姿」

 ユーグが一瞬詰まる。そしてほんの小さな声が聞こえた。

「かわいい」


 ひゃっ。びっくりしたー。一気に動悸がして、苦しい。きっと顔が赤い。

 横に座っていたユーグも、真っ赤な顔をしている。

 なんなの、これー。



 ユーグが空咳をし、話をそらした。

「母さんは、今頃朝食を終えているはずだ。

 食後の薬を待ってもらっているから、ついたらすぐに昨日の魔法陣の検証をしよう」


 今日の実験の話をしていると、すぐにユーグの家についてしまった。

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