異世界より黒猫来る

● 異世界より黒猫来る


 F−22NS アタックスーパートムキャット21改は2760年9月に発生した三日間戦争スリーデーマーチの際に異世界「リアル地球」からもたらされた機種である。

 ベースとなった機体はF−14なる艦上戦闘機であり、空対艦ミサイルによる飽和攻撃戦術を行う長距離爆撃機に対抗するために開発された。


 この様に、F−14は異世界における防空に特化したいわばミサイル発射母機といえる仕様で、格闘戦を重視する我々の世界とは全く違う価値観に立脚している。


 まず、専用の長射程空対空ミサイルである、AIM-54 フェニックスとそれを制御するレーダー火器管制装置が搭載されている。


 また、リフティングボディを応用した機体形状で揚力を稼ぎ、可変後退翼の角度を状況に応じて変化させることで効率よく揚力を得ている。

 遠隔武器による殴り合いを終えた後の近接格闘戦は全くと言ってよいほど想定されておらず(敵機もミサイルキャリアーであるため)、あまりの思いきった仕様に、鹵獲機体を見た軍首脳部はこう語ったという。


「無茶しおって……」



 ● 空翔ける大艦巨砲主義が与えた影響〜異世界産のパラダイムシフト


 潜水艦に加え、まったく想定していなかった見えざる空からの脅威に対応を迫られた軍艦政本部は、個艦防空から艦隊防空へ根本的な設計思想の練り直しを迫られた。

 百キロを超える射程を持つ空対艦ミサイルに対抗しうる防空システムをまったくゼロから構築せねばならない。

 リアル地球は我々の歴史からみてifの世界であるが、「選択されなかった可能性」が再びなされない保証はない。


 ● 戦闘純文学兵器の限界とアウトレンジ飽和攻撃への対応



 三日間戦争におけるブレーメン塹壕戦(カノコイ3第18話)で改めて露呈したとおり、戦略創造軍のほぼ六割をしめる「ロジカル兵器」は強い人間原理に依存している。

 発砲から命中まで戦闘純文学者による目視確認が欠かせないセミ・アクティブホーミングであることから、ロングレンジの複数目標同時撃破能力に特化した機体が強く求められた。


 ● 魔改造への道〜マルチロールファイターからNear&Far Blend戦略へ


 F−22NSはリアル地球のアメリカ空軍が構想したF−14の発展型である「スーパートムキャット21」開発計画に端を発する。

 特権者戦争は惑星プリリム・モビーレを主戦場として行われた。幸いな事に、未だ特権者による直接的な地球本土侵攻は行われていなった(遠隔的な確率変動操作による成層圏外での怪魔発生など間接的な攻撃はあった)。

 大気圏外からの同時多発侵攻に備えてトムキャットの長距離迎撃能力が渇望され、リアル地球では頓挫した発展改良型の本格的な開発がスタートした。


 機体構造は完全に再設計され、ファンデルワールス複合素材を加味した応力解析など一新された構造計算技術に基づいている。

 エンジンはプラット&ホイットニー社製TF30-P-412から超音速巡航スーパークルーズは勿論のこと、スラッシュ水素を燃料とするリニアエアロスパイクエンジンへ換装。

 のちにクーロンパワーによる星間物質を吸引・濃縮するバザード・ラムスクープジェットを包含するハイブリッドエンジンに変更された。

 このことにより、航続距離が桁違いに伸びた。


 与圧結界を応用した耐熱結界を機外に展開することで単独大気圏離脱・再突入機能を得た。360度全周型の量子レーダー、インテンション・オートマチック(意思による操縦)、従来のHUDにかわり操縦者の周囲に数値を投影するエア・サイネージ、デジタル・フライバイ・ワイヤを進化させたQD(量子もつれドライブ)を装備した。

 特にアビオニクス系の進化は地殻変動に等しい。電子系統は量子コンピューターを核とする人工知能が掌握し、あらかじめ設定された思考パターンに拠って自律的な行動ができる。


 ファンデルワールス合金製の主翼や胴体下にハートポイントを計15か所まで増設し、ASAT(衛星破壊弾頭)から地中貫通爆弾まで搭載可能である。


 ● 艦隊防空や大気圏外侵攻阻止のかなめ


 F−22NS アタックスーパートムキャット21による超長距離迎撃、旧来の格闘戦闘機による要撃の二段構え(ニア・ファーブレンド思想)で一部の隙も無い空の守りが完成した。


 

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カノコイ~プロジェクトローレンシア・イエローブックリポートVOL49~戦略創造軍特記事項 水原麻以 @maimizuhara

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