御子屋千央 Ⅲ
四
玄関で
外灯に照らされた、遠く、奥の奥まで続いている、
「ずるいです、ずるいです」
と、まゆみくんはむすっとして、ずうっとふくれていましたが、わたしがお団子を買ってあげると、途端に機嫌を取り戻しました。一本のつもりが三本も四本も、もちもちもちと頬張るので、
「
などという言葉が浮かびました。
が、きっとこれを彼女に云えば、というか当たり前のことですが、彼女はまた、ぷくりとふくれて、
「ふふ、ふふふ」
従妹はわたしのすこし先を歩きながら、
そうしてぶらぶらと、穏やかに
そして、思いました。
―――こんなにも穏やかな日々があるのに。
―――今日もどこかで、あのような。
―――
―――ばらばらが。
人というものを人ならずの、生きた球体関節人形とする邪法。その身体から、犯人―――
いったいどうして、このような事柄が、我々の世界にあるのでしょう。いったいどうしてこのような、穏やかで、どうしようもなく
―――と。
わたしがうだうだと、思考の迷路を
―――それは生じました。
「あ、雨―――」
急に雨が降りました。
途端。
「オニイサマ」
と声ばかりで。
お兄様、お兄様と、わたしの姿を探す声が、ざあざあと降る雨の中で、混ざりの中にしいんと響いて、わたしの心を騒がすのに―――傘の中に埋もれている、いろいろの人の、いろいろの顔が、傘や雨のいろいろに阻まれて、まったく判別がつかぬのです。どこに彼女が
「オニイサマ」
はやく、はやく探し出して。
探し出してやらないと―――
―――なにか。
なにかが。
彼女の、彼女の身に。………………
「キャア」
―――声。
声でした。
急に静かになりました。
ざあ、ざあ。
雨が降って。
ざわざわざわ。
傘がゆきます。
ある、一つ所を避けて、前へ後ろへ行き過ぎます。
―――その。
その中心に。
まゆみくんは居たのです。
「―――ああ」
ばらばらに、ばらばらになって。
酷く、蠢く、肉塊と化して―――
「ああ、ああ」
彼女の上で、わたしが呻くと、
「あ、ああ、ああ、ああ」
わたしの下でそれが呻いて、酷くバラバラになった身体を、球体の人形になった身体を、ほうぼうへ、あっちこっちへ、芋虫のように動かして、うねうねと、うごうごと、ただ、ただ、蠕動をしました。崩れ崩れて、崩れたものども―――崩れたその手を蠢かして。その足を、胴体を。彼女の頭を、髪を胸を―――ああ。ああ。
ああ!
わたしはまた、やってしまった!
あれほど可愛らしかった妹というのを、わたしはまた、バラバラにしたのだ! わたし、わたしというものは、この事柄を目撃し―――すでに知っていたはずなのに、それをすべて忘れ去って、また、また、また、彼女を―――ああ!
「ハハハハハ………」
声でした。
くぐもった、音でした。
「ハハハハ。ハハハ。ハハハハハハハ。………………」
気付けば周囲の傘たちは消え、去っていて―――
「ハハハハハ………」
雨の中、ぼうっと立った
嘴の仮面のしたで、
死神の持つ
ははははは、と
そしてその、左手には―――
「―――ああ」
わたしは気付いたのです。
わたしの、わたしのかわいい妹―――
まゆみというものの両の
「あ、ああ、あああ、あ」
ぐるり、ぐるり。
ぎろ、ぎろり。
まゆみの
わたしのことを。
「―――やつだ」
突然。
気付けばわたしの隣には、ぎろりとやつを
「追うぞ
そうしてわたしは、
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