御子屋千央 Ⅳ
五
こうしてわたしと
そしてこれら事柄は、まさしくわたしというのが
叶わぬ
その―――叶わぬ
わたしはいま、叶えていました。
二度と思い出せぬのでしょう。
これは
きっと、きっと。
間違いなく。
―――だというのに。
どうして目の前のいろいろが、こんなにも鮮やかなのでしょう。どうしてこれほどまでにも、色も、味も、質感も、五感といういろいろの、わたしの有する認知機能は、わたしに「これは
ああ、
これは
―――そう、あってほしい。
わたしはもう、願っていました。
「さあ、
客室の、中でした。
紫色した夕焼けに染まる、がたんごとんと走り続ける、どこからどこへ行くかもわからぬ、行き先不明の客室の中で。わたしと
最後の戦い。
という様子です。
「よくぞ私を追い詰めた。―――うら若き
低く、低く、
あたりを包み込む声音で。………
しかし、おかしいのです。
わたしたちの乗った車両には、さっきまでだれもいなかったのに、いま、その座席には、いろいろの、たくさんの、見覚えのある人々が、じいっと動かず座っています。
その、異様というのに、気付くのはわたしばかりでした。
そして
「――――――」
まゆみの、人形でした。
まゆみによく似た人形が、座席に座っているのです。
「ぁ………ぅ………」
呻いていました。
わたしはたいそう驚いて、
「さあ、終わりにしようか」
「わたしが勝つかおまえが勝つか―――二つにひとつだ」
「くくははは」
「私をここまで追い詰めたとおりに。―――私というのを、倒せるかな」
傘を持たぬ手をゆらりと上げます。
「
「―――なればこそ」
そして。
そして。
ばらばらにしました。
負けたのです。
―――なぜ。
―――なぜ、どうして。
―――どうして彼。
―――彼が。
―――
―――わたしの、唯一の。
―――救いの彼が。………………
ばらばら。
彼というのが終わったのです。
「――――――」
絶望でした。
さっきまでそこに立っていた、さっきまで一緒に、わたしと一緒にいろいろの国を土地を、世界を、場所を謎を―――追いかけていた彼というのが、
「ハ、ハハ、ハハハハハ。………………」
わたしは彼に、なにかを。
云ってやりたく思いました。
が。
いや。
そもそもわたし。
―――わたしというのは。
「
と、云ったかと思うと。
わたしの視界はぐるぐるになって、そしてバラバラになりました。
ばらばらに、ばらばらに―――
あのときと、同じように。
―――いつもこうなのです。
わたしはこれらの最後になって、これら事柄が
何回ばらばらになったのか。
何回
わたしはもう、わかりません。
わからぬままに過ごすのです。
操りの中に永遠に。
永遠に、永遠に―――
彼が助けてくれぬ限り――――――
そして、最後の私は―――頭だけの、さかさまになったわたしは、わたしの周囲のいろいろが、ばらばらになってゆくのを見ました。先ほどまでのいろいろの世界が、書き割りになって流れました。紫の夕日は照明でした。電車はハリボテの板どもでした。屋根がありませんでした。
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