第2話 白日

 音楽のデヴィッド・マイケル先生は人気者だった。


 いつも授業の最後には、ビルボード上位の曲をギター演奏しながら披露し、生徒の人気を集めていた。


 しかし、最近はクラシック音楽の歴史を淡々と語るだけで、大変つまらない授業になった。彼の眼の下に隈が出来て、骸骨のようにやつれている。


 ここで出てくるのが、悪夢撲滅委員会の女子達である。



 悪夢撲滅委員会の部室で、マイケル先生は悪夢を語る。


「最近、ピアノを弾いていたら、ピアノが狂暴化して噛まれそうな悪夢ばかり見るんだ。それでもう音楽自体、イヤになっちゃって……」


「そうなんですか、大変ですねー」


 ボブショート黒髪のマリー・ツートンがコーラを片手にしながら、他人事のように言う。


「ちょっと、マリーちゃん。真剣に聞いてあげてよ!」

「あんたには人の心がないんかい!」


 丸メガネのスー・ホーンと金髪のジューン・チーダスがすかさずツッコミを入れう。


「狂暴化ピアノって、可愛いと思いませんか? ねぇ、マイケル先生?」

「か、かわいい……?」


 マイケル先生は彼女の突拍子のない発言に困惑の色が書く隠せない。


「もうグダグダよ! ジューンちゃん、変身して!」

「よっしゃい! んみゃああ!」


 ジューンは黄色いボールを見て瞬時にチーターに変身する。それを見たマイケル先生は泡を吹いて気絶し、夢の中へ……。




 夢の中で、マイケル先生はピアノを弾いている。


「ああ、また同じ場面だ。ということは――」


 ピアノから目が出て、鍵盤が牙になって、彼の手を食いちぎろうとする。


「痛い、痛い、やめろー!」


 マイケル先生はピアノお化けの口から手を放そうとするが、ピアノお化けはワニのようにがっちり噛んで放さない。


「なるほど。あれがピアノの怪物ね」

「あたいが噛みついてやるやん?」

「いや、それでは根本的な解決になりません。マイケル先生のピアノに対する潜在的な恐怖を取り除く必要があります」


 スーは室内の壁の本棚を見つけ、とある本を取り出す。


「あっ、これです! この写真!」


 その本には、幼い頃のマイケル先生が、ピアノの先生によって頭をピアノの鍵盤に押し付けられた写真が載っていた。その他にも、指揮棒で頭を叩かれたり、楽譜で口をふさがれたりと、暴行の数々が載っていた。


「きっと、これがトラウマになって、ピアノが嫌いになったんですよ!」

「かわいそう、ピアノに罪はないのに」

「どうするやん?」

「ピアノ君をかわいがろう!」


 3人はピアノの脚を、ムツゴロウさんのように優しくなで始める。


「よーしよしよしよい、いい子だいい子だ」

「落ち着いて、落ち着いて」


 すると、ピアノお化けはおとなしくなり、マイケル先生への攻撃が甘噛みになった。


「マイケル先生、ピアノは可愛いんです! 弾いてあげると、もっと喜びます!」

「わ、わかった!」


 マイケル先生はジョージ・ガーシュウィンの「ラプソディー・イン・ブルー」を軽快に弾き始める。ピアノお化けの目は消え、牙が元の鍵盤へ戻っていった。




 悪夢から解放されたマイケル先生はロックンロールに目覚めた。


 ハリネズミのごとく無数の尖ったオレンジ髪、中央に黒い五芒星ごぼうせいがある赤いバンダナ、紫のアイシャドウ、黒い口紅をまとい、ヘヴィメタをピアノで奏でる。


「死亡絶望毛ぇぼうぼう! 俺達の野望に世界中脱帽!」

「わぁ、すごーい!」


 生徒の多くが目を白黒させている中で、マリーだけが満面の笑みで拍手していた。



(続くかも)

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ハーマコ学院高等部 悪夢撲滅委員会 鷹角彰来(たかずみ・しょうき) @shtakasugi

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