ハーマコ学院高等部 悪夢撲滅委員会

鷹角彰来(たかずみ・しょうき)

第1話 怪物

 ジューン・チーダスは最近、悪夢にうなされていた。


 それは、大きな黒い怪物が彼女を食べようとする夢だ。森の中で、彼女は必死に逃げるが、崖っぷちに追い込まれてしまう。怪物が大きな口を開けて食べられそうになるところで、いつも目覚めてしまうのだ。


「むにゃあ。ねむたい」


 昼休み、ジューンは机につっぷして寝ようとしている。食欲よりも睡眠の欲望が勝っていた。


「悪夢撲滅ぼくめつ委員会でーす。あなたの悪夢を退治しまーす!」


 ジューンの前にボブショートの黒髪の女子が現れた。隣に黒髪ストレートの丸メガネの女子がいる。


「悪夢退治?」

「はい。私たち悪夢撲滅委員会は、色んな方の悪夢を退治しているんです」

「ここじゃ何だから、部室に来てきて」


 ジューンはボブショート女子に手を引っ張られた。


「あたしはマリー・ツートン。他人の夢の中に入り込める力がありまーす」


 ボブショート女子はいたずらっぽく笑う。


「えっと、私はスー・ホーンです。夢について研究しています」


 スーはメガネをかけ直して、キリッとした表情を見せる。


「あんたらが、うちの悪夢を刈ってくれるやん?」

「もちろん! 『龍滅りゅうめつつるぎ』最新刊購入で解決しまっす!」

「ええ。無料じゃないやん……」


 ジューンは少し考えたが、睡眠外来に行くよりは安いと思い、悪夢撲滅委員会に頼むことにした。彼女は夢の内容を詳細に語る。


「なるほど。それは、何か大きな不安を感じているのかもしれませんね。最近、何かしらの新しいこと始めましたか?」


 スーは病院の先生のように、丁寧に説明する。


「うーん。そう言えば、最近ソフトボール始めたやん。エラーばっかして怒られて……」

「それです! まずは、その不安を取りのぞくことが大事です」

「ほんじゃ、夢の中入りますかー? おやすみ」


 マリーが部屋の電気を消すと、遮光カーテンで映画館より真っ暗になった。ジューンは自然と眠たくなって、テーブルにつっぷした。



 鬱蒼うっそうとした森の中で、ジューンは1人迷っていた。


「またこの夢か」

「ウグアアアアアア!」


 大きな黒い怪物が出てきた。彼女は走る、走る、必死に走る。


「なるほど。これが怪物ねー」

「思ってたより大きいですね」


 マリーとスーが怪物と並走していた。


「あっ! 早く助けてやん!」

「自分の夢は自分で解決しないとねー」

「ごめんなさいね」

「なっ! 人でなし―!」


 ジューンは悪態をついて走り続ける。だが、いつも通り崖っぷちに追い込まれて、食べられそうになる。


「食べられるー! 助けて―!」

「そうそう。そのまま食べられちゃえー」


 怪物が彼女の肩を噛みちぎる。


「ひぎいいいい!」


 彼女が死を覚悟した時、満月が目に入る。黄色くて美味そうな月、彼女の眼が輝き、全身に黄色い獣毛が生え始める。


「うにゃあああ!」


 彼女はチーターと化して、怪物の首筋を噛んだ。怪物はこけつまろびつしながら、森の中へ逃げていった。


「あれ? うち、ネコになっとるやん?」

「これで、再び怪物に襲われても平気だねー」

「チーターは短距離タイプなので、くれぐれも走り過ぎに気を付けて下さいね」

「あぁ、良かったー」


 ジューンは満足して目を閉じる。再び目を開ければ、悪夢撲滅委員会の部室にいた。彼女は2人に感謝を伝える。


「ホンマ良かったわ。ありがとうニャア。ニャア?」


 ジューンは自分の手をじっと見る。手のひらに肉球、手の甲に黄色い獣毛が生えていた。


「んみゃあああ、変身してるやんけー!」

「怪物に襲われるなら、自身が怪物になればいいってね」


 ウインクするマリーに対して、ジューンは殺意が芽生えた。


 その後、ジューンは満月の夜にチーター化する特異体質になったが、一切悪夢を見ないようになったそうだ。


 めでたしめでたし。


(続く?)


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