6話 昨夜のこと(本文)

昨夜のこと。

俺と若い女性(仮 秋子)の間で


・・・ふと気付くと、

いつの間にか窓を打つ雨音が静かになっていた。


昼間は激しく降っていた雨が、

ようやく小雨になっていた。


俺は落ち着いていた。

雨の日の運転は、初めての事じゃない。

不安や焦りは禁物だと経験から知っていた。


目の前のなめらかな路面は、まぶしく灯りを反射し、

水たまりではねる雨は、

まるでいくつものはじける生命の喜びを見つめているようだった。


雨の帰宅時間とは言え、いつもは混んでいない場所の渋滞。

前の車が少し進んだ。

俺は、ゆっくりと車を滑らせた。

すーーー・・・ 


ブレーキペダルに置いたままの右足に軽く力を入れた。

キュ。


その時、横のカーディーラーとマンションの間の細い道から

秋子が乗る軽自動車が出てきた。

秋子「あっ。なにこれ。すごい混んでる!」


俺は強くブレーキを踏んだ

・・・・ギュッ! 


「あぁ・・・。」 首を激しく左右に振る秋子。

混雑状況を確認していたようだ。


秋子の車は、ぐっしょりと濡れていた。


そして、「おねがい。」と言わんばかりに 

少し間隔をあけて止まった俺をみつめた。


少し前方の車がゆっくりと動き始めた。

秋子がまた左右に首を振った。


動き始めた車を認めると、

「おねがい・・・。入れて。」

秋子の瞳が訴えてくる。


俺は、秋子を見つめたまま、身体を動かした。

右手で≪どうぞ。≫のポーズをとると、


運転席から背中を浮かして秋子が喜びの瞬間を迎える。


秋子はまた俺を見つめると笑顔になり、うなずいて見せた。


そして、俺の前に入ってくると、

「ありがとう!」のハザードを三回点滅させた^^

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言葉遊び「言の葉」 鷹山勇次 @yuji_T

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