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猫背人

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 雑草が鬱蒼と生い茂った庭を眺めながらコーヒーをすする。

 そろそろ刈り取った方がいいかとか、ここまで伸び放題ならいっそのことこのまま放置してしまおうかとか、益体もないことを思うのが毎朝の日課になっていた。

 去年の今頃はこんなにも伸びっぱなしになっていなかったはずだけれど、今年はこんなにも伸びているなんて自然の生命力の強さに辟易する。今はまだ雑草が幅を利かせている範囲は庭で済んでいるけれど、最近は玄関の方の雑草もくるぶし以上の背丈になってきた。このまま放置していると家の出入りもめんどうになりそうだ。しかし刈り取るのまためんどうだ。

 草刈り鎌はどこにあっただろうか。たしか物置にあったはずだ。その物置も庭の端に鎮座しているのを見れば、茂った草の中を通って取りに行かなければならないのか。

 めんどうだ。

 なににしてもめんどうなことに変わりない状況から目をそらすように飲み干したマグカップをシンクの中に置きに行く。

 そろそろ家を出ないといけない時間だ。

 身支度を手早く済ませて玄関で靴を履いて扉を開ける。朝のほんのりと涼しくどこか湿り気がある空気が肌を撫でて、玄関から外に出れば雑草が足首を撫でる。

 やっぱり、刈り取った方がいいんだろうな。

 くすぐったく煩わしい不快感を覚えた雑草を帰ったら刈り取ろうかと考えた。

 


 フルタイムで入っているアルバイトの日は、肉体疲労に対して気だるさを抱きながらもシフトを変えずフルタイムで入り続けられる理由がある日だった。

 バイト先の先輩——夏目先輩と同じシフトの日は気だるさがありながらも、その気だるさを隠して先輩に良い姿を見せるために頑張れて、結果的に他のシフトに入っている日よりも能動的に一番働いている気がする。

 挨拶をして持ち場に就くとそこに先輩もいる。それだけで活力が湧いてくるのはなんて安上がりな性格だと思ったりもするが、結果的に労働を意欲的に取り組めているのだから誰にも文句は言われないだろう。

 今日も一日そうしてバイトをこなして、休憩に予定が無ければバイト終わりに飲みにでも行けないか先輩を誘った。

 「いいね、行こう」と快諾してくれた先輩と飲みに行くのは久しぶりだった。

 前に行ったときはバイト先の仲のいいバイトリーダーが念願叶った就職でバイトをやめたときの送別会以来だ。あのときは先輩と飲むというより皆で祝い酒という感じだったから先輩と二人で飲みに行くのは本当に久しぶりに感じられる。

 バイト終わりを楽しみにして過ごしていればすぐにその時間がやってきて、二人でバイト先をあとにする。

 どこに行こうかとか、なにが食べたいとか、なにが飲みたいとか適当に話し合って適当な店に入ってとりあえず乾杯をした。

 労働のあとの一杯といより先輩との一杯という理由で美味しく感じられるアルコールは瞬く間に全身に回る。それに対して先輩はアルコールに強く、送別会のときでも結構な量を飲んでいたはずなのに酔っている様子を感じさせなかった。

 こちらがチビチビと飲むのに対して普通の水を飲むようにアルコールを摂る先輩との会話は気が付けばやめて行ったバイトリーダーの話になっていた。

 家族からいつまでもフリーターをしてないで早く就職しないさいと急かされていたり、就職先が見つかるちょっと前までは生きているうちに曾孫の顔が見たいと要求されていたりしていたらしく、新卒の就活が芳しくなく気が向かないところに就職するくらいならバイトしながら就きたい職種に就けるまで足掻くと身内に啖呵を切った手前バイトリーダーから正社員採用の話を受けるのもプライドが許さなくてそこからしばらくしてやっと希望の職種に在り付けたという。

 先輩がそこまでバイトリーダーと打ち解けていたのは初耳で驚いた。思えば、世間話など当たり障りない会話はたくさんして仲がいいと勝手に思い込んでいたがバイトリーダーとは身の上話のようなことはあまり話したことがなかったのに気が付いた。

 あまりもう関わることがないだろう人のことを初めて知るとなんだが僅かにもの寂しさを感じる。

 アルコールで情緒が緩んだ状態だとナイーブな感情にもなりやすい。

 先輩はそんなバイトリーダーの話をしていると、自分も親から心配されていて、やれ就職だ、やれ年齢だ、いつまでもフリーターで居るのは世間での肩身が狭いから早く就職したい、あるいは扶養に入りたいとか、宝くじで一攫千金して楽になりたいとか、猫になって温室で自由に生きたいとか、愚痴や願望が堰を切ったように溢れ出して話が止まらなくった。

 先輩の姿はバイト中に見る真面目な姿とは違い、気が緩んでほんの少しだらしくなくなり、そんな姿を見せてもらえていることに優越感や誇りを感じたりしている。

 ほんの数分前はナイーブになって今は自己肯定感を感じたりして、先輩とのお酒は楽しい。もっと先輩といろんな話をしたい。そう思ってもまたすぐに飲みに誘いたいが、先輩の都合を考えると高頻度では誘いにくい。

 あるいは経済力をもってして毎度驕れるほどの余力があれば誘うことも出来ただろうが、先輩と同様のただのアルバイトには毎度毎度人に驕れるほどの経済力は持ち合わせていなかった。フルタイムする日を増やせば、なんてことも考えるが、そんなことをしたら将来設計が崩れて先輩を飲みに誘い毎度驕れるような経済力からはなおのこと遠ざかる。

 己の財力の無さを僅かに情けなくも思いながら先輩を眺めていると、先輩は自分で言っていた愚痴やら願望やらに傷心したのか深いため息とともに俯いた。

 なにかいい言葉をかけてあげるべきなのだろう。

 先輩もバイトリーダーみたいにいい就職先見つかりますよとか、先輩は美人だから市場に出れば引く手あまたで玉の輿も夢じゃありませんとか。

 言ったところでいまいち先輩の好感度を稼げるような気がしない言葉しか思い浮かばない。

 手持ち無沙汰になりメニューを手に取り先輩に唐揚げもう一皿頼みますか? と聞けば俯きながらうんと返ってきて店員に注文した。

 それからは先輩の気が落ち込む話題から話を逸らしてお酒を飲み、解散するにはいい頃合いになって先輩を駅まで送っていくことにした。

 落ち込んでいた姿から回復した先輩の姿は陽気にステップを踏むようにお酒を楽しんだ様子だった。

 将来の不安だとか、周りからの圧力だとか、そういったものを全て忘れて享楽に浸れるお酒の力に関心をして先輩が転ばないように隣を歩く。

 踏んだら転びそうな空き缶に注意するよう呼び掛けたり、前から来る同じ酔っ払いにぶつからないようにしたり、お酒に強い先輩も不安からは逃げたくて酔って、駅までとはいえ介護紛いなことするのを許せるくらいには信頼されているんだと、やはり心の中で自負したりして、就職だとか結婚だとか経済力だとか、そういう圧力にかけられて自分も不安に陥るならばなんとなく先輩と一緒に居て、それを共に打開していきたいな、とか横で妄想を広げたりした。

 駅につくまでに酔いが収まってきたのか、お開きにしたときほどの酔いは先輩から見受けられなくて、じゃあまたねと言って先輩は改札に入っていくのを見送った。

 先輩の姿が見えなくなってから、いいものを見れた浮かれた気分で軽くステップを踏みたくなるような軽い足取りで自分の家に帰る。

 


 カーテンの隙間から差し込む朝日で目が覚めて顔を洗って軽く目を覚まして、キッチンに行ってコーヒーと朝食を適当に用意して食卓に着くことなくキッチンでそのまま立ち食いをする。

 昨日は楽しかったな、なんてことを思い出したり、今日の予定の確認もぼんやりと思い浮かべたりしてカップをもってリビングのカーテンを開けに行く。

 カーテンを開くと雑草が伸びた庭が目に入る。

 刈り取った方がいいことをなんとなく頭の中で思い浮かべるが、刈り取るのがめんどうだという気持ちが勝って刈り取る行動に移せないでいる。

 庭を眺めて逡巡していると家を出る時間が近付いて身支度に取り掛かる。

 雑草に足首を撫でられながら見送られて、その日の予定を過ごす。そして家に帰り適当に過ごして眠りにつく。

 翌朝いつもの時間に起きて顔を洗い朝食を食べてリビングのカーテンを開ける。

 目に入る雑草はどこまで伸びるのか、そんな益体もないことをを考えているうちに時間が来て家を出る。

 そんな日常を過ごして、気が付けば庭の雑草によって家の外観がまるで廃墟のような様相になってしまった頃。

 バイトへ行くと珍しく先輩から今日終わったら飲みに行かないかと誘われた。 

 二つ返事で快諾して、バイトが終わると近場の居酒屋へ足を運んだ。

 先輩から誘ってもらったことに浮かれながら適当にお酒とおつまみを頼んで、グラスが揃うと乾杯をした。

 今日は先輩から誘ってもらった嬉しさからか一口飲んだだけでも顔が真っ赤になって火照っているような感覚があり、対して先輩は珍しくグラスのお酒を一気に飲み干して、直ぐに次のお酒を頼んでいた。

 今日はいつもとは様子が違い、まるでやけ酒のような飲み方を思い聞いてみると先輩はストレスでこういう飲み方もしてみたくなったという。

 どうやら先輩は、つい最近両親からこっちで就職先が見つからないなら地元に帰ってくることを勧められたらしい。しかし先輩の受け取り方としては勧められたというより、宣告に近かった。

 もともと大学を卒業したらこちらで就職先を見つけて地元には帰らずということを学生の頃から決めていて、家族とは決まらなかったら地元へ帰ると約束していたらしいが、先のバイトリーダーよろしく艱難辛苦な就活が成就せず、先輩は家族との約束を反故する形でフリーターとしてこの街に残った。それも先輩の家族は先輩の意思を尊重して何も言わなかったが、それが最近になっていよいよ心配になってきた家族によって約束を守ってもらうと最後通牒を言い渡されたのがストレスになりやけ酒をしたくなり誘った経緯だった。

 先輩としてはフリーターで居ることに不安や危機感、焦燥感など感じてフリーターの身に甘んじているつもりはなく、励んでいるがそれが上手くいかないのだと言ってグラスの半分ほどのお酒を一回で飲む。

 もちろん家族に心配をかけていることも分かっているし、約束通り今度の面接で上手くいかなかったら大人しく帰るのも仕方ないと思っているらしく、その言葉に思わず口へ運んでいたグラスの手が止まる。

 半ば先輩に会えることを口実に続けていたバイトで先輩に会えなくなる可能性が浮かび上がり、不安が押し寄せた。

 もとより先輩がバイトをしている理由が就職するまでの生活費を用意するための場繋ぎというのは前から知っていたし、いつかは先輩がバイトをやめて行く日があることは分かっていたが、それが近いうちに来ることは思ってもいなかった。先輩から就活の進捗を聞ける機会はこうした飲み会くらいで、頻度もよくて月に一回くらいだから今日こうして先輩から事情を聴いて、自分の中に謎の焦燥感が芽生えた。

 先輩の就職は成就してほしい気持ちがあり、またその逆に先輩と会えなくなるのは嫌だという気持ちが胸の中で混濁して、喉が詰まるような苦しさを覚える。

 しかし、考えてみれば先輩の就活が失敗すれば凡そ会うことは二度とないくらい縁のない地へ先輩が帰省してしまうが、先輩がこちらで就活が成功すればまだ望み薄ではあるが先輩に会える可能性はぐんと上がる。

 なら先輩が地元へ帰省してしまわないように、こちらでの就活が成功することを全力で祈るべきか、と考えて喉のつまりに水を入れて押し流す。

 しかし、そう考えているこちらに対して先輩はどうも次の面接を成功へ導くことに及び腰なことを口にした。

 バイトリーダーは覚悟をもって自分の就きたい職種で仕事が見つかるまで頑張ったが、それに比べて先輩はそこまでの覚悟を持てず、次に行く面接先も妥協で選び本心としては地元へ帰省して就職するのと大差ないという。つまり、こちらで就職しようがしまいが、先輩にとってどちらでもいいという話だった。

 確かに最初の頃はある程度の覚悟を持っていたが、時間が経つにつれてなかなか決まらない希望職種なんかよりも就職できない不安の方が勝ってしまい、妥協で応募先を選ぶことも次の面接先が初めてではないらしく、今回の家族からの話も先輩にしてみればタイミングの良かった話になっていた。いや、むしろ地元に帰ってしまう方がいいことなんじゃないかと考え始めたくらいで、今の自分がどうしたいのかはっきり分からないと言葉をこぼした。

 いまだ希望職種に就きたい気持ちがあるが、上手くいかない現実を妥協してしまうくらいなら地元に帰るのも一つの手と思う葛藤に苛まれている先輩の様子に、どんな言葉を掛けたらいいのだろうと思った。

 次の面接先以外にもいい就職先見つかりますよと言ったところでそんなものは他人事のような言葉の軽さを与えてしまうし、地元に帰ってもきっといい未来もありますよなんて言葉は先輩に会えなくなるから言いたくもない。

 どっちにしたって先輩の背中を押せるような言葉は思いつかなった。

 ただバイト先に行ったら先輩が居て、先輩と話したり出来る、そんな日常を喜びにしていただけの身には掛ける言葉も吐き出せない。

 言えるとしたら先輩と会えなくなるのは嫌ですだとかのこっちの勝手な願望くらいだろう。そんな言葉を伝えても先輩には迷惑だろうし、今の先輩に言っても失望されるのがオチだ。

 落ち込んでいる先輩を前にして自分の不甲斐なさにため息をつきたくなるが、そんな姿は先輩には見せられない。

 何もできないことを誤魔化すようにグラスを口にすると、先輩は投げかけてきた。

 君もこの先就活があってそれがもしも上手くいかなくてブラック企業に就職するかフリーターになるか選択しなきゃいけなくなったら君はどっちを選ぶの、と。

 額面上はおそらくブラック企業に就職してしまうかもしれない。けれど、そこに所属していることでかかる負担を考えたら非正規でもフリーターの方が融通が利いていいのかもしれない。

 二者択一ならば、そのときはどちらを選ぶのだろう。

 逡巡し、答えに迷ってあてもなく再びグラスを口にして、それから先輩を見た。

 わかりません。

 苦笑いで誤魔化したら先輩の表情に失望した面影が一瞬現れて、すぐに同じように苦笑いになった。

 だよねと笑う先輩に対して深い罪悪感が芽生えた。

 宝くじでも当たらないかなー、なんて言って残っていたお酒を飲み干した先輩はお酒をおかわりして、その後はいつも通り適当に談笑を始める。

 お開きにはいい時間になって、いつものように先輩を駅まで送る最中、胸中では膨れ上がる罪悪感に苛まれた。

 やはり他の言葉を、どちらかの答えを言っていた方がよかったのだろうか。

 第一印象で感じた答えをそのまま言ってればよかったのだろうか。

 そんな問答が延々と自分の中で繰り広げられては、後の祭りで後悔に辿り着く。

 横を歩く先輩の姿はしっかりしていて、やけ酒をあおっていた人の足取りとは思えないほど真っ直ぐと駅に向かっていた。

 それに比べて、こちらの足取りは気を抜けばちょっとの段差でつまづいて転んでしまいそうなくらいに不安定な気がする。

 アルコールへの耐性の無さも相まって情けなさがさらに自身を卑屈にさせる。

 駅に着いて、改札前でいつものように別れるとき。

 先輩はごめんねと言ってから、ありがとう、じゃあねと笑顔で手を振って改札の中へ入っていった。

 いつもはない謝罪の言葉がなにに対して謝られたのか考えたくもなかった。

 雑踏の中に先輩の足音が遠ざかっていくのをただ呆然と耳にする。

 そして、次のシフト日から出勤しても先輩の姿はなく、そこからしばらく経ったある日に店長から先輩は実家に帰省したことを聞いた。


 *


 庭の雑草はより青々となり、背丈を伸ばすよりも誰が一番より広く日光を吸収できるかと競い合いを始めていた。

 茎は太く、葉は青く、土の中ではきっと根が沢山張り巡らされていることを想像するとそれらを除去するに一苦労するのは明らかだった。

 いっそ彼らの競争を葉が枯れて種を落とすまで見守ってみるのも良かったかもしれない。けれど、右手に構えた鎌はそんな彼らに容赦をする気は無かった。後ろには金属製の熊手も控えている。

 道具のやる気は十分に鋭利で、不安要素は使い手の体力くらいだ。

 だが、それも休み休みやって一日で終わらせると決めたのでなんとしてでも庭を取り戻して見せると、腰を下ろした。

 一本一本の茎が太い雑草を束に取り鎌で端から刈り取っていく。

 半畳ほど刈り取った時点で汗が滝のように顔を流れるのを見ると先は長そうだ。

 計画通りに休憩をこまめに挟みながら半日近くかけて草を刈り取り、熊手で根っこを掻き取る。

 それらすべての作業が終わったのは日が沈みかけている頃だった。

 かつての姿を取り戻した庭を眺めると爽快感がある。

 やってみるものだな、なんて自分に関心したらすぐに道具を片付けてシャワーを浴びに行った。

 これで明日からの朝は益体もなくめんどうなことを考えなくて済む。

 そう思うと明日の朝がちょっとだけ楽しみになって来たりもする。

 シャワーを出て適当にくつろいで、夜を過ごして眠りについた。



 翌朝、目が覚める。

 カーテンを開けて部屋を出て顔を洗いに行き、キッチンへ朝食を摂りに行く。

 コーヒーが入ったカップを持ってリビングのカーテンも開ける。

 雑草が刈り取られた庭はなんだが殺風景にも思えた。

 

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