8 奇襲
「あのー、いきなり来た伝達には魔力駆動兵器があるってあったんですけど、こっちもそれで出なくてよかったんですか?」
しばらく走っていると、助手席に座っている索敵を任された男子生徒がオルガに意見する。
「所詮野蛮で低能な帝国だ。どうせ性能が低い物に決まっている」
「そう決めつけるのはかなり命取りになる気がするのですが……」
おずおずと魔術士の女子生徒、リーリスが言うと、ルームミラー越しにじろりと睨まれて萎縮してしまう。
だがその意見は間違いなく事実。勝手にそうと決め付けていたら、手痛いしっぺ返しを受けることになる。
警告の意味での意見だったのだが、聞き入れるつもりはないらしい。
『時代遅れにも程があるわね。このタイプの人間を集めて、アンティーク人間博物館でも開催したいくらい』
(何よ、そのアンティーク人間博物館って)
オルガにほとほと呆れていると、裏人格が話しかけてくる。
『そのままの意味よ。ま、あの男にはアンティークと呼べるほどの価値はなさそうだし。あなたは無能じゃないって言うけど、わたしからすれば地の底まで突き抜けるほどの無能で間抜けよ。あの無能欲情豚教官よりは千倍マシだけど』
(………あぁ、ハロルド教官ね)
あまりにも酷過ぎる評価を付けられているが、全くの事実なので何も言い返せない上に、シルヴィア本人もそう思っているから何も言い返さない。
『血と臓物と悲鳴が大好きなわたしだけど、あの豚の物は見たくもないし聞きたくもないと思っていたわ。「
ハロルドに使われた魔術の名は『高周波膨破』。魔術で高マイクロ波を対象に撃ち込み、血液や水分を一瞬で沸騰させて内部から爆発四散させるという、非常に高い殺傷能力を持っている魔術だ。
どこに当たっても確実に死に至る。一人につき一発なので、乱戦では効率が悪い。
(死んで当然と思いはしたけど、スカッとはしなかったわ。周りに内臓が飛び散ってて、正直気持ち悪かった)
『ふふっ。所詮はまだ、殺しによる快楽と絶頂を味わえない生娘ね』
(そんなので興奮して気持ちよく感じるようになったら、自分で首括るわよ。絶対にそんな異常者にはなりたくはないわ。最悪、いつか無差別殺人とか起こしそうで怖いわ)
戦いで喜びを感じ、殺しに快楽を感じて果てには絶頂すら感じるとなると、それはまさしく異常殺人者だ。
戦争中で対象が帝国魔導士に絞られている辺りまだ平気だが、もしこれが自国の人間にいずれ向くと考えると、ゾッとする。
『無差別殺人なんて絶対にしないわよ。わたしが殺すのは、わたしに歯向かってきた敵だけよ。無差別に選ばずに手にかける阿呆と一緒にしないで頂戴』
(それでも帝国兵を殺して喜んでいる時点で、わたしからすれば大分ヤバいんだけどね)
あまりにも感性が違うので、それぞれの意見が食い違う。
裏人格は表人格である人間とは真逆の感性を持っていると推測しているのだが、それにしてはあまりにも残虐性や残忍性に突出しすぎている。
くすくすと裏人格が笑いそれに少しうんざりしていると、ぴりっとしたものを額に感じる。
「っ! 前方五百メートルより魔術反応! 回避してください!」
そのすぐ後に、リーリスが警告する。
それにまたルームミラー越しに睨まれるが、直後にオルガも肉眼でそれを確認して、慌ててハンドルを右に全力で切る。
ぐおんと高機動車が右に進路を変え、車内にいる生徒達が遠心力でもみくちゃになる。
飛来してきたのは、トップクラスの殲滅力を誇る炎軍用魔術『
きっと、狙撃銃によるものだったのだろう。凄まじい速さでまっすぐに、シルヴィア達の乗る高機動車に向かってきていた。
オルガが全力でハンドルを切ったおかげで直撃は避けたが、近くに着弾して起爆し、その衝撃と爆風で車が吹っ飛んでひっくり返る。
咄嗟にリーリスが車体に情報強化魔術をかけ、車内にいるメンバー全員に防御魔術をかけたので、大きな怪我はせず擦り傷で済んだ。
だが車がひっくり返ってしまったので動こうにも動けず、罰を受ける可能性が非常に高いが扉を吹っ飛ばして外に出ることにした。
「ユリス! 扉を吹っ飛ばして!」
「あいさー!」
右手が霞み、右太もものホルスターからリボルバーを抜いて銃口を扉に向け、対象に着弾した瞬間に追加で強い衝撃を放つ魔術『衝天撃(インパルス)』を起動。
狭い車内での発砲音はかなり響いたが、緊急時なので誰も文句を言わなかった。
高機動車の分厚い鉄の扉に弾丸が当たると、追加で強い衝撃を放ち、鈍い音を立てて扉が吹っ飛ぶ。
そこから這うように車外に出て、各々の装備を『倉庫』から取り出して構える。
遅れて、オルガが外に出てくるのを見計らったかのようにもう一度『大炎隕石』が飛来するが、鋼鉄の高機動車という頑丈な壁の中でそのまま待機し、狙撃銃を取り出した男子生徒が対抗するように引き金を引く。
その衝撃で、フロントガラスが甲高い音を立てて砕け散る。
その男子生徒が使った魔術は、炎の対となる水の軍用魔術『
炎に水という選択肢は普通にみれば正しいのだが、今回ばかりはそれは悪手だった。
『大炎隕石』と『水圧壊』が衝突すると、瞬く間に水が沸騰して水蒸気爆発を引き起こす。
凄まじい熱風が吹き、結界を貼りながらも咄嗟に両腕で顔をガードする。
「バカ! 炎系魔術に水で対抗しないでよ!」
「普通炎といったら水が対抗だろうが! 相殺できたんだし、結果オーライ! 次、来るから気を付けろ!」
ガシュッ! とレバーを引いて排莢し次弾を装填。もう一発飛んで来た『大炎隕石』に照準を合わせ、同じ魔術で相殺を試みる。
上空で二つの巨大な炎の隕石が衝突し、ずんっと腹に響く衝撃が奔り、劈くような爆発音が響く。
悪手ではないがそれでもこちらにも被害が出そうなほどの威力だったので、シルヴィアが額に若干青筋を浮かべるが、登っている溜飲を下げて大鎌をぐっと握って走り出す。
ユリスも左足のホルスターからリボルバーを引き抜き、自身に情報強化魔術と自己加速魔術をかけ、シルヴィアに追随する。
遅れて、オルガも自動小銃を構えて範囲がやや狭い索敵を展開。
どこに敵が潜んでいるかを突き止め、様子見と言わんばかりにその方向に向かって銃口を向け、引き金を引く。
連続したマズルフラッシュと銃声が鳴り、一秒間に十数発もの弾丸が吐き出される。
「『
リーリスが杖を掲げて水属性魔術を起動。
複雑怪奇な魔術法陣が杖の先に現れて、そこから七体の水の大蛇が顎門を開きながら飛び出る。
「「『
シルヴィアが大鎌を振るいながら魔術を起動し、扇状に氷の槍を飛ばす。
同時に、ユリスが連続して引き金を引きながら、同じ魔術を起動する。
ユリスの氷の槍は音速を超えており、先に防御を貼っておかないと即死する威力を孕んでいる。
もちろん敵がそんなことを考えていない訳がなく、硬質な物に当たって弾かれ砕ける音が耳朶を打つ。
「お前らかかれ! 男は殺せ! だが女は殺すな! 綺麗どころは皇帝陛下に献上するから、できるだけ傷つけるんじゃねぇぞ!」
「かなり無茶な命令だが、最大限それを考慮してやってやるぜ!」
「「「「「応ッ!」」」」」
人間が簡単に隠れられるほどの岩の影から続々と帝国魔導士が姿を現し、各々の得物を持って襲いかかって来る。
その魔導士達は正規兵の様で、慣れた様に連携を取りながら攻撃を仕掛けてくる。
そこまで前線に近付いたわけではないのだが、正規兵が待ち構えている。向こうに優秀な指揮官がいて、こちらの行動を先読みしたのかもしれない。
今はそんなことを考えている余裕もないので、シルヴィアは目の前の敵に集中する。
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