7 出撃
普段から諸々の準備を済ませていたシルヴィアとユリスは、準備をするという手順を飛ばして格納庫へと赴いた。
二人が一番というわけではなく、他にもあらかじめ準備をしていた生徒たちがすでに到着しており、戦いに出る前の最終チェックを行っていた。
シルヴィアとユリスも同じように最終チェックをしていると、一人の男性魔導士が二人の存在に気づき、露骨に蔑むような目を向けながら歩み寄ってくる。
「シルヴィア・レイフォード。今回お前は、学生部隊の隊長ではなく一隊員として参加してもらう。くれぐれも、独断行動はしないように」
「目に付く範囲に危機に陥っている学生魔導士がいたら助けに行きます。見捨てるということはできません」
釘を刺すように、学生魔導士部隊の隊長を務めることになっている教官が言うが、見向きもせずに
女で、しかも歳下なシルヴィアにきっぱりと言い返されて少し青筋を浮かべるが、その独断行動のおかげで多くの命が救われているので何も言えない。
もしそれで、何かしら大きな失態をやらかしてくれれば反省室の中に放り込むこともできるのだが、今のシルヴィアには失態らしい失態が無いのでできない。
「ちっ……。とにかく、隊列を大きく乱すようなことはしないように」
露骨に舌打ちをしながらそう言い残して、出入り口の方に向かって行く。
「……あの人、誰だっけ?」
「前時代にも程がある男尊女卑思考な、時代遅れなオルガ・ランギルス教官。無能教官では無いけど、とにかく女子を見下すような発言が目立つ人」
ハロルドといいあのオルガといい、少々人格に難アリな人物が多い気がする。
「準備はできたかしら?」
「ばっちし。魔術も問題なく作動するよ。シルヴィは?」
「こっちも問題なし。ギミックもちゃんと動く。魔力も通るし、刃毀れもない。リボルバーも問題ないし、いつでも平気」
二人も手早く最終チェックを済ませる。
「今回は隊長じゃなくて、隊員として出るんだね」
「わたしだって学生だもの。必ずそうという訳じゃないわ。それに、今回はわたしがそうしなくてもいいって判断なんだろうし」
これが、シルヴィアに課せられている制限の一つだ。
在学中に既に、最精鋭部隊である第一魔導戦闘部隊に配属が決定しているが、それでもまだ十六歳の学生だ。勉学が最優先で、よほどのことがない限り部隊に行って何かすることはない。
代わりに、学生にしては飛び抜けている戦闘能力があるが故に、かなり大規模な戦闘が予想される時は学生部隊の隊長として出撃することになっている。
学生には強すぎる権力を持っているが、それを完全に自由に行使できるようになるのは、激戦が予想される時だけという変わった制限だ。
「ボクとしては、シルヴィと一緒に居られるから嬉しいんだけどね。シルヴィの近くにいれば、大体安全だし」
「だからって気を抜かなようにね。わたしだって、まだ学生なんだから」
大鎌の点検を終え、その大きさ故に邪魔になるため『
再びリボルバーを太もものホルスターから取り出し、
それをホルスターにしまうと同時に、オルガがやってくる。
「隊員の確認が取れた。これより出撃する。いいか、死にたくなければくれぐれも隊列を乱すな」
じろっとシルヴィアの方を睨むが、本人はどこ吹く風だ。
それに顔を歪めると、苛立たし気に踵を返す。
「出撃開始前に、ブリーフィングを行う。一度しか言わんから、決して聞き逃すな」
敵の総数や進路方向。そこから予測されるインヴェディア魔導士の複数の目的。
一方的にそれらを伝えられ、生徒達はそれを頭の中に叩き込んでいく。
ブリーフィングと言えないそれを五分足らずで終了し、魔力駆動式四輪高機動車に飛び乗る。
運転するのは当然オルガで、その隣には狙撃銃を扱っているから目がいいだろうという理由で、一人の男子生徒が座っている。
右手にスコープを持ち、拡大率を高くして前方を警戒している。
「警戒とかなら魔術士の方が断然いいのに、わざわざ狙撃銃を持ってるからって無理して男子から選ばなくていいのに」
「結局男子優先ってことなんじゃない。本格的に学院長に意見言おうかしら」
輸送用の車なので非常に広い後部座席にて、ユリスがぼやく。
ユリスの言う通り、狙撃銃のスコープを使うより魔術士の索敵の方が、警戒に向いている。
なのにオルガはその狙撃銃持ちの男子生徒を、警戒役として選んだ。
理由としては単純明快。オルガの部隊にいる魔術士は全員、女子生徒だからだ。
女だからと性別だけで信用されない魔術士の女子生徒は、見るからに落ち込んでいる。
「そんなに落ち込まなくても大丈夫だよ。魔術士は剣士や銃士より魔術行使の能力が高いし、ボク達より活躍できるよ!」
「……ユリスさんとシルヴィアさんには、絶対に勝てない。シルヴィアさんなんて、大鎌一つで剣士と魔術士になれるし、リボルバーまで持って銃士もやってるんだし……」
そう言われて、ユリスは何も言い返せなかった。
確かにシルヴィアはどれにでもなれる。
大鎌は一応剣に部類されるが、試作段階の特殊ギミック武装で、刃を飛ばした時のように下の方に付いているギミックを作動させて柄の一部を分離させれば、分離した部分が杖の役割と果たして魔術の威力を大幅に増幅させる。
そこにリボルバーだ。魔導士は何になるか決まってはいないのだが、ほとんどが一つの物だけに傾倒している。
シルヴィアのように三種類同時使用するオールラウンダーは、中々存在しない。
「そうは言うけど、わたしほとんど剣媒体でしか魔術使わないわよ。銃魔術だって牽制や不意打ち程度にしか使わないし、杖魔術も放ってから当たるまでの時間がもったいないからあまり使わないし」
「魔術が当たるまでの時間がもったいないって言う人、初めて見た……」
魔術士の女子は、シルヴィアの発言に少し目を見開く。確かに、シルヴィアのようなタイプの人間は中々いないだろう。
「シルヴィが使う魔術は、ほとんどが自己加速系の魔術だもんね。そっちの方が効率がいいって言ってた」
「大規模な殲滅や瞬間的な火力は、当然魔術士や魔銃士の方が高いでしょうけどね。銃に至っては、弾丸が音速超えている訳だし」
「それを視認して回避するシルヴィは異常とも言える」
レイフォードの遺産という反則手段を使っているからこそ、できる芸当だ。
しばらく走ると巨大な門を抜け、戦時中でまともな舗装ができていない道に出る四輪高機動車。
ガタガタと揺れる車内。硬い座席が臀部を痛め付け、慣れていない生徒達がそわそわと身動ぎする。
学生隊は正規部隊の戦いに巻き込まれない様に、迂回する様にブリーフィングで決めた地点まで行くことにしている。
シルヴィア達の隊は成績が優秀な生徒が揃っているため、比較的前線に近い地点に行くことになっている。
そこはもしかしたら帝国魔導士がやってくるかもしれない場所。他の学生よりも命の危険があるため、緊張感が増して行く。
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