第六話

 一緒に、近くにあったチェーンのコーヒーショップに入り、大和さんはブレンドを、私はカフェオレを購入し席に着いた。

コーヒー代は大和さんが支払ってくれた。

 

 「遠慮なくごちそうになります」

そういってカフェオレをひとくち飲む。

「そういえば、こうやって一緒にお茶を飲むのって、初めてですよね。二年も一緒にお仕事していたのに」

「あの頃は、本当にお世話になりました。立花さんにすっかりあまえて、色々細かなことまで頼んでしまって。ご迷惑をかけてたんじゃないかと、今になって思う次第です」

「いいえ。それが私の仕事ですから。全然、問題ないですよ」

 

 「……じつは今日、こっちに来たのは法事があったからなんです」

唐突に大和さんが話題を変えた。

「両親の十三回忌で───俺が高校に入った年に事故で亡くなって。年が離れた兄が二人いたから暮らしとかは問題なかったんですが」

「……ご苦労されたんですね」

「苦労かどうかわかりませんが。亡くなった母と立花さん、雰囲気が似てるんですよ。それもあって甘えていたんですよね、きっと。ああ、母親に似てるなんて、失礼なことを言って申し訳ないです」

大和さんは、深々と頭を下げた。

 

 「失礼だなんて。むしろ光栄ですよ。誰かから、そうやって頼ってもらえるなんて。でも残念だな」

「なにがです?」

「私、大和さんがまたこっちに戻ってきて、一緒に仕事できるのを楽しみにしてたんですよ。それができなくなるから」

「どうしてです?」

「私、来週いっぱいで仕事やめるんです。単身赴任中の主人が、入院することになって。その看病もあって、向こうへ行くいいタイミングかなと思ったんです」

 

 「ご主人の病気、ですか」

───いつの間に結婚したんだろう。

さりげなくカップに添えられた手に目をやる。

華奢な白い指に光るシルバー

俺はコーヒーで苦い想いを飲み下す。

「ええ。主人は、私が今の仕事を楽しんでいるから『たまの見舞いならまだしも、辞めてまでこなくていい』と言ってくれたんですけどね」

「いや、それは行かれたほうがいいと思いますよ。俺だったら、口ではそう言っても来てほしいと思うだろうし」

「ありがとうございます。そういってもらえてよかったです……行っていいものか、ちょっとだけ悩んでたから」

 

 「あ!ご結婚されてるんだったら『立花さん』と呼んだのって、失礼でしたね。申し訳ないです」

「いえ、久しぶりにそう呼んでもらえて嬉しかったです」

そう言って立花さんは、昔みたいにニッコリと笑ってくれた。

 

 

********************

 

 

 コーヒーショップをあとにし『やっぱり少しだけお店を覗く』という立花さんを見送った。

そして、俺は発車時刻が迫った駅のホームへとむかった。

A市に向かう列車に揺られながら、俺は、彼女が言った言葉について考えた。

 

 『仕事する上でも、普通に暮らしていても、いろんな事が起こってきますよね。それをすべて“ミッション”と受けとめてクリアしようとすると、楽しいことはより楽しくなるし、逆にいやなことやつらいことも、これはゲームだと思えば案外気が楽になって、乗り越えられるんじゃないかと思うんです』

 

 彼女みたいな考え方ができたらいいな、と思った。

すぐには無理だろうけれど。

(まずはそう意識する……ことが第一のミッションだな)

おれは座席に深く座りなおして目を閉じた。

 

 



 

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ミッション・クリア2 奈那美 @mike7691

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