第105話 あなたが好きだから(薔薇風味。菓子職人×塾講師を第三者視点から)

※このあたり(https://kakuyomu.jp/works/16816452220371917465/episodes/16816700426235889522)の二人。颯太(塾講師の先生)は出ません。第三者視点。この話単体でも読めます。


 よく行く英国菓子屋さんで、癒しの時間を得た。

「あら、トーリーさん、これ、新作?」

「新作、というより、かいりょうです。くるみぞうりょうしたんです」

 こちらも常連さんらしい奥さんが、ケースの中をのぞき込みながら聞く。店主のトリスタンさんが、にこにこ笑顔で「くるみ、なんとニバイですよぅ」と得意げに言った。

 それはいいなあ、と横目に見つつ、私は茶葉を選んでいた。

「へえ、美味しそう」

「わたし、くるみ好き!」

 奥さんの横で、お嬢さんが元気よく手を挙げた。可愛い。幼稚園くらいかな?

「じゃあ、この紅茶木の実スコーンも二つ、頂こうかしら」

「ありがとうございます」

「定番商品もバージョンアップを怠らない、流石トーリーさんですね!」

「いえいえ、ちがうのです」

 トリスタンさんが首を振った。それから。

「私のパートナーさんが、くるみ、だいすきなのです。だから、ふやしたらよろこぶかなぁっておもっただけなんですよ」

 えへへ、と照れた笑みを浮かべ、肩を竦める。

 ……何その顔可愛い。そして理由も可愛い。

 全部可愛い。

 大人のおじさま(と言っても、たぶん三十代くらいっぽいけど)が可愛いことすると、ギャップ萌えが発生する。すなわちマイナスイオンが発生する。癒しだ。

「ふふふ、お熱いですね」

「ママといっしょだね!」

 お嬢さんが、鈴が鳴るような声で嬉しそうに言った。

「ママもね、パパが好きだから、たきこみごはん、さつまいもがたーくさん入るの!」

「こら、みく!」

「ふふ、みくちゃんちのたきこみごはんには、さつまいもとloveが、たーっぷりなんですね」

「そうだよ!!」

「もう、この子ったら……」

 奥さんが、照れながらお嬢さんの頭を撫でる。お嬢さんは得意げで、可愛い。

 何だこの癒し空間。私は、あやうく茶葉の紙箱を握り潰してしまうところだった。

「すてきです」

「トーリーさんもね」

 素敵と言い合う、あなた方が素敵です。

 私は、心の中でスタンディングオベーションをした。

 拍手喝采。尊い癒しに感謝である。

 感謝の証として、茶葉の他に新作スコーンは二個買ったし、おまけで貰ったキャンディーは、まだ店内で商品を選んでいたお嬢さんにあげた。

 今日も、いい日だ。


 END.

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