第106話 ばあちゃんと僕(男子高校生とおばあちゃん)
.
朝の教室。
飛び込んで来た友人が、いちばんに僕のとこに来て言った。
「口内炎に緑茶の出がらし、マジで効いた」
「やろ?」
「お前、見直したわ」
バシバシ、と友だちが僕の肩を叩く。
喜んでくれるのは嬉しいけど、痛いで。
「ちなみに、めばちこにも効くで」
だが、ちゃんと残りの情報も教える。
この痛みのお返しは……せやな。お弁当、卵焼きを頂くことにする。
こいつんちの卵焼きは美味いもんな。
せや、今度作り方教えてもらお。
ばあちゃんにも作ったらんと。
「マ?」
「出がらしをコットンで包んでギュッと染み出させる。それを目元にトントントンってすると、ええ感じや」
「マジか……」
「こっちは、よく効く人とそうでない人がおるから注意やな」
「ふむ」
友だちは、スマホでメモをしながら、
「お前、何でそんなことに詳しいんだよ。すっげぇな」
言った。
「ばあちゃん子やからちゃう? 昔から色んな知恵を聞いとったからな」
「なーる。でも、お前んちのばあちゃんみたいにそういうのに詳しい人もそうそうおらんし、やっぱすげぇわ」
「そうかなあ」
僕は、ばあちゃんに色々聞くのが当たり前になっていたからよくわからなかったけど、
「でも、ばあちゃん褒められたみたいで嬉しいわ。ありがと」
お礼は言った。
身内が褒められるのは、やっぱり嬉しいことだから。
「せや。今度、お前んちの卵焼きの作り方教えてくれん? ばあちゃんに作ったげたいねん」
「しゃーないなぁ。秘伝やけど特別な」
※
「ただいまー」
玄関を開けて、挨拶。
もちろん、返事が返って来ることは無い。
おふくろも親父も働いているから、この時間に家にいることは無い。
それは、昔からだから慣れている。寂しくも無い。
「ばあちゃん、ただいま」
部屋に鞄を置くと、ばあちゃんの部屋へ。
そのまま、仏壇の前に座り、お鈴を鳴らす。
チリン
ただいまの挨拶。と同時に、僕にとってはおかえりの挨拶のようにも聞こえる。
「さて。どこまで読んだっけ」
仏壇の脇に置いてあるノートを取り出す。
これは、ばあちゃんが書き留めた我が家の『秘伝』ノートだ。
ばあちゃんの知恵が詰まっている。
「ここ。……しょうがの使い方かぁ」
ばあちゃんは、僕が小学校の時に天国に行ってしまった。
けれど、僕にちゃんとこのノートを遺してくれた。
だから、このノートを開くと、僕はまだまだばあちゃんから色んなことを教われる。
「ばあちゃん、今度お礼に、美味い卵焼き、作るからな」
写真のばあちゃんが、ウィンクしたような気がした。
END.
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます