第8話 ネタが無い(付き合ってない男女・そういうとこだぞ、の二人)

※そういうとこだぞ(https://kakuyomu.jp/works/16816452220371917465/episodes/16816452220437783755)の二人です。この話単体でも読めます。


「ネタが無い」

「そーかそーか」

「ネタが無いんだよぅ!」

「そーかそーか」

「そーかそーか、じゃなくってぇ!!」

 バンッ

 絵葉が机を叩いた。

「〆切っ! 明日!!」

「せやな」

 俺は、壁にかかったカレンダーを見た。確かに、日付のところに大きく丸がしてあり、『2525七月号、〆切』と下に書いてある。

 書いたのは、俺だ。

 ちなみに『2525』とは、我が漫同の部誌の一つであり、おもに四コマや一~四ページ漫画用の部誌だ。

「別にいいだろ、お前、『R4』の連載もあるんだし」

 『R4』は、長編や中編、連載漫画用の部誌になる。

「ダメだよっ。幹部の間は、どっちにも原稿出すって決めてるんだし」

「その心意気は見事だが、俺を巻き込まないでくれないか」

 俺は俺の仕事(表紙絵)を終えた。

「部室だって、特別に開けてやってるんだぞ」

 今日は部活動の無い日だ。〆切前だし、さっさと家に帰って原稿をやれと言いたい。

「幹部権限ってことで……」

「家でやればいいだろ」

「ここでネームまでしていかないと、絶対家に帰ったら漫画読んだり寝たりしてやる気なくなるからぁぁぁ」

「駄目人間め……」

「知ってるよぉぉぉぉ」

「俺にも用事はあるんだぞ」

「大丈夫だよ、ボイロの双子は待っててくれるよぉぉぉ」

「ボイロは待っててくれても、ゲームは俺がクリアしないと動画にならねぇんだよ」

「でも井上にしか泣き付けないんだよぉぉぉぉ」

「……」

 確かに絵葉がこんな風に駄目人間の姿をさらけ出すのは、俺の前くらいだ。家族の前でもここまでグダついた姿は見せないだろう。

 そう思うと、あまり強くはねのけられなくて、困る。

「とにかくネタ! 一ページで描けるいいネタ!」

「ネタねぇ……」

 俺はため息を吐いて、考えた。

 本当にネタが出ないと、帰してくれなさそうだし。

 ……仕方ねぇなぁ

「ネタ代わりってわけじゃないけど、俺、お前に言ってなかったことがあるんだわ」

「えっ、何いきなり」

「告白」

「えっ!?」

「実は俺」

 絵葉の眼を、じっと見る。真面目に、まじまじと。こうして見ると、リスみたいなつぶらな瞳とか、健康的にふっくりした頬とか、黙っていれば可憐と言えなくもない。今も、頬がいやに朱く染まって、りんごのほっぺという言葉がよく似合う。

 まあ黙っていないので、そんなこと思ったこともないが。

 さて、本題。

「……女なんだ」

「……………はあ?」

「女なんだ、俺」

「いやいやいや。無いでしょ。ありえないでしょ。えっ、今の空気、絶対そっちの告白じゃないでしょ」

「ツッコむのはそこか?」

「いや、女ってこともありえないけど! だって、ちっさいころ一緒にお風呂入ったじゃん! ついてたじゃん!」

「……チッ、覚えてたか」

「流石に覚えてるわっ」

「まあ、こんな感じでだ」

「どんな感じよ」

「ある状況を二枚のイラストで表現するやつ、あるだろ? 例えば一枚目を見ると『人助けかあ』ってなるけど、その裏側を描いた次のイラストを見ると『スリだったかぁ』みたいなやつ」

「ああ、あるねぇ」

「さっきの告白も、そういう感じで表現すれば?」

「……もしかして告られるかも! って雰囲気の一枚目?」

「で、二枚目……男の後ろ手にワンピースがあるとか、何かそんなんで」

「面白いかは微妙だけど、絵を凝ってみたら、いい感じに見えるかも? だったら、女の方にも何か秘密があってもいいかも! 殺し屋とか」

 絵葉は思い付いたのか、さっそく紙に描き始めた。

「一枚目は横顔のアップでー、二枚目はもう少し引きで、それぞれの後ろ手に持っているものがわかってー……」

 いきいきした顔で、アイデアを描き出していく絵葉を見ながら。

「……もう少し、何か期待してくれても悪くなかったんだけどな」

「何か言った?」

「いや?」


 END.



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