第13話 すれ違い

 そんな時、拓哉の勤めるスーパーで新しいタイプの姉妹店を出店する事になりその店の店長に拓哉が抜擢された。拓哉にとっては栄転であり願ってもない話だった。今では珍しくないが朝7時から夜11時まで営業するというその頃では画期的な今でいうコンビニの様な店だった。


 拓哉は新しい店『ファースト』の店長として異動となり慌ただしい毎日が始まった。開店準備、オープンと殆んど寝る間も惜しんで働いていた。お店まで通勤1時間以上かかり朝早く夜遅くまで働き睡眠不足が続くという事で初めこそは家から通っていたがその内泊まり込んで働くようになり家に帰って来るのは週1回のペースだった。私も疲れから事故を起こしてはと心配だった為、拓哉が帰って来れない事もやむを得ないと思っていた。私は私で2人目を出産し家事と育児などで忙しかった。結婚して分かった事だが拓哉は仕事一筋で家庭的ではなかった。子煩悩と思っていたが子供と過ごす時間も殆んど取る事がなかった。家族そろって食事を摂った事が何度あったろうか?記憶に残らない程だ。


 そういう生活が何年か続き私が26歳の時には3人の子供の母親となっていた。2番目の子は男の子で『れん』3番目の子は念願の女の子で『もも』と名付けた。最初から女の子を望んでいた拓哉は桃の誕生をとても喜んでくれた。これを機に家庭的になってくれるのではないかと微かな期待を持ったがそれは儚い夢となった。


 仕事一筋の拓哉、家事と育児などで疲れ気味の私。お互いそれぞれに忙しく2人でゆっくり話し合う時間もなかった。こうしてすれ違いが続き私達夫婦の歯車は少しずつ狂っていったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る