第10話 出産
出産予定日が近づいた12月の初旬の朝方、私はお腹の痛みを感じて目が覚めた。痛みの間隔はまだ遠い。
初めての出産の場合、痛みが始まっても出産までには時間がかかり入浴する余裕があると母から聞いていたので私はお風呂を沸かし始めた。
今では考えられないが当時は出産後の入浴は1ヶ月位禁止されていた。拓哉は私の隣で寝ていたがお風呂から上がってから起こそうと思った。
お風呂に入ってからも時々痛みは来たが休み休みゆっくり入浴した。お風呂から上がって拓哉を起こすと拓哉は驚いてすぐに飛び起きた。
病院に電話すると「出産用準備をして直ぐに来て下さい」との事だった。
病院に到着すると直ぐに内診が行われた。
お産が始まる準備は出来ているようだがまだまだ時間がかかるようだ。
結局それから7時間かかった。
何度も何度もお腹が割れそうな程の痛みが押し寄せて意識が何度も遠のいた。
これほどの痛みを乗り越えて母親になるのかと思うと全ての母親を尊敬せずにはいられなかった。
無事出産して生まれたばかりの我が子を見た時は涙が溢れていた。
標準よりは小さめの男の子だった。
男の子という事は事前に分かっていたので拓哉と一緒に考えていた通り『
拓哉は出産までまだ時間がかかるという事で仕事に行ってしまっていたので我が子に対面したのは仕事が終わった夜だった。
拓哉は出産後ゆっくり休めるように個室を頼んでいてくれたが、私が出産した産婦人科は親子別々だったのでひとりぼっちで淋しかった。
私が出産した当時は出産後すぐにテレビや本を読むことは目に悪影響を及ぼすと禁止されていた。
ましてや携帯電話などない時代だった。お乳を飲ませに行く以外は何もないがらんとしたひとりぼっちの部屋で淋しくて仕方なかった。
産まれてきた赤ちゃん(翔)が元気でいるかどうかも心配だった。
定期的にお乳を飲ませに行った時が我が子に会える唯一の楽しみだった。
が、授乳の時間に限って翔はぐっすり眠っていてなかなか起きてくれなかった。
しかも生まれてくる時羊水を呑んでいた為せっかく飲んでもお乳を殆んど戻してしまう事も多かった。
翔がお乳をあまり飲んでくれないにも関わらず私のお乳はたっぷり出ていたので母乳が出ないお母さんの代わりに母乳を分けてあげていた。
初乳は黄色く栄養価が高いという事で喜んでもらえた。
それから食事も楽しみだった。
妊娠5ヶ月位になるとつわりは多少和らいでいたが出産するまでは口の中や胃がスッキリせず食事をしても何か胃がもたれた気がしていたのに出産した途端、何でも美味しく食べられた。
入院中は退屈で淋しいと思っていたがこんなに一人の時間でゆっくり過ごせたのはこの時限りだった。
退院後は慣れない育児と睡眠不足の日々が待ってるなんて思ってもみなかった。
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