第2話 出逢い (1)

 一目惚れだった。

廊下ですれ違った時一瞬だけ目と目が合った。友達とふざけあって笑い転げていた彼の目が私の目と合った瞬間、爽やかな風が私を包んだ。

名前もクラスも何もかも分からない人。

その日以来私は彼の事が忘れられず気になって仕方なかった。

休憩時間はいつも彼の姿を探すようになった。

たまに遠目に彼の姿を見つけたらそれだけで一日がハッピーだった。


 私、木村志乃、16歳、高校2年生になったばかりの4月初旬の出来事だった。

それまでの私は一目惚れなんて信用してなかった。

相手がどんな人か分からないのに好きになるなんて考えられなかった。

それなのに私、いったいどうしちゃったんだろう?いつもみんなから「夢見る志乃ちゃん」と言われているくらい空想好きで夢見る少女の私だから勝手に想像して理想の彼氏を創り上げてしまったのかも。

実際付き合ってみたらガッカリなんて事になるかも。

だからもしこの思いが卒業する時までずっと続いたとしたらその時は私の思いを伝えようかな?なんてそんな気持ちだった。

それからの私は校内で彼の姿を見つけるのが楽しみになった。


 そんな私の変化にいち早く気付いたのは同じクラスの友達、小野優子だった。

「多分、食品化学科の子だよ。名前調べてあげるよ」と積極的に動いてくれた。

彼の教室は私の校舎とは渡り廊下を挟んで反対側の校舎という事まではいつも彼の姿を探していて分かっていた。

私は普通科だったので彼の科とは関わることが無かった。早速、優子は彼のクラスの名簿を手に入れてきて「山下拓哉らしいよ」と教えてくれた。

「拓哉かぁ、いい名前」そう思った。

「今日も拓哉に会えるかな?」名前が分かっただけでも気分は上昇ワクワクした。

学校で拓哉と会えるかどうかでその日一日の気分が変わるのだ。

たまに会えるだけ、それだけで良かった。

告白するとか付き合うなんて考えてもいなかった。


 私がいつも彼の姿を追っているからだろうか?いつの間にか目と目がよく合う様になった。

目が合うと私は恥ずかしくってすぐ目を逸らしていたけれど彼はそんな時笑顔を向けてくれてるような気がした。

気のせいだと思うけど自分の都合の良いように私は解釈して喜んでいた。

                              

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