第6話 初夏の残照 心境
あれから何度かケンカして
それでも何度も仲直り
夏の終わりの砂浜で
今でも好き?と確かめる
確かに初夏のことだった
君と出会って恋に落ち
過ごした時間は無限大
無くしたものも無限大
僕の心が変わりゆく
君を優先できなくて
仕事や家族を考える
秋の気配のする街で
毎週毎週会うことが
負担に感じ始めてる
時間とお金と心まで
もう限界と弱音はく
あれやこれやと言い訳し
君の街から遠ざかる
会う間隔も遠くなる
僕のいつもの悪い癖
メールに電話するたびに
君を遠くに感じては
いつもためいき秋の風
いつの間にやら秋の色
「最近来ないね どうしたの」
「ごめんね仕事が忙しい」
「わかった 今日もがまんする」
「ごめんねホントに今度行く」
なぜか気持ちが続かない
嫌いになったわけじゃない
今でも好きだ 好きだけど
心がしぼむ燃えなくて
人の心は変わりゆく
季節も景色も変わりゆく
自然の摂理 本当に
君は「勝手」と言うけれど
あれほど気にした君の過去
最初は遠慮で気にしない
それからとても気になって
今ではホントに無関心
メールの返信遅い君
「ずぼらだなあ」と言ったけど
今では僕が超ずぼら
君に会わせる顔がない
あれよこれよと秋が過ぎ
冬に向かってまっしぐら
何とか続いた君と僕
あれこれ数えて六ヶ月
ときどき会って食事して
ホテルで抱いてさようなら
どうしてなんでこうなった?
たぶん僕より辛い君
この半年の出来事は
僕は就職が決まって
君は新車を買った
君の家に行って
お母さんに会った
二人で長崎に行った
結婚式につきあって
帰りにUSJに行った
それから
たくさん話をした
君の甘い声が好きだった
茜の雲を追いかけて
特急列車が突っ走る
海辺の景色 秋の色
カラスが帰る秋の空
秋の景色は枯れ葉色
朱色 オレンジ 麻黄色
初夏の命が消え失せて
何かが終わる気配する
とぼとぼ歩く 夜の街
肌身に染みる 秋の風
いろんなことが空しくて
どうしていいのかわからない
明日から始まる七曜が
とても憂鬱な月曜日
それより気になる週末が
行くも行かぬも気がかりで
火曜水曜 過ぎてゆく
木曜 それでも決めかねて
金曜決めどき行く行かぬ
結局飛び乗る 特急に
金曜夜九時駅前で
君の車が待っている
食事そこそこラブホテル
いつもの夜の過ごし方
翌日土曜日 街に行き
デート 買い物 映画見て
最終列車のとき迫る
帰る 帰らぬ 悩み時
結局 君に言い出せず
無理して泊まるラブホテル
家のことが気がかりで
土曜の夜が過ぎてゆく
翌朝 日曜 目が覚めて
早めに帰る 用事ある
君はけなげに止めもせず
来週会える?と首かしげ
結局お昼を食べてから
ちょっと買い物 ショッピング
結局今日も夕方で
同じ列車で帰路につく
何度も何度も繰り返す
毎週毎週繰り返す
どうしていいのかわからない
それでもたぶん繰り返す
その頃、僕はフリーターに近くて
朝から晩まで働いて日銭を稼いでいた
金曜日がちょうど賃金の支払日で
給料袋を受け取るとそのまま特急に飛び乗っていた
そのお金はたぶん君と過ごす週末できれいさっぱり無くなっていた
どうやって暮らしていたのかわからない
不安が大きくなっていった
それとともに
君への思いが小さくなっていったように思う
自分勝手だった
僕たちの短い初夏の物語
初夏の残照として
初夏の残照 詩川貴彦 @zougekaigan
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