第2話 素面


夜が明けて、眩しい日差しを浴びせる太陽は真上から私たちを見下ろしていた。


あれだけ酔っ払っていた彼も流石に起きただろうか、と思いながら歩いていると、ピコピコと携帯が鳴った。



『酔ってたわ』



5文字、淡白なLINEが来たことを通知が知らせていた。


どうやら酔いはしっかりと醒めたようで、いつもの彼の調子に戻っている。



「おはよう、だいぶのんでたね」


『起きたらちゃんとベッドで寝てたけど、帰ってきたときの記憶ないんだよね』


「あ〜、覚えてないのね、笑」



なんとも言えない気持ちになりながら、テンポ良く返信をしていく。


肩からかけている鞄の紐を握っていた手に、少しだけ力が入るのがわかった。


返信するの、少し後にしようかな、と画面を暗転させると、5文字のLINEを伝えにきた通知とは別の音で携帯が鳴り響いて、突然のことに携帯を地面に落としそうになる。


彼からの着信。



「…どしたの」



電話に出ないこともできたはずなのに、出てしまった、つい。



『いや、特別なんかあるとかではないけど、

ごめんね毎回酔って電話かけて』


「全然いいよ、いつでもかけておいで」



なんだかんだ、彼の声が聞けるのが嬉しいと思ってしまっている自分がいる。



『まじで覚えてないんだよね、でもなんか起きたら脚にあざ出来てたわ、押すと痛いもん』



どのタイミングでぶつけたのだろう、と考えるより先に、私の口が動く。



「昨夜、会いたかったなあって言ってくれてたけど、あれは本気だった?」



1秒経って、後悔した。


これで期待通りの答えが返ってこなければ、傷付くのは自分だけなのに、なんでこんなこと聞いたんだろう。


こんな賭け、自傷行為となんら変わらない。


耳に当てた携帯から彼の返答が聞こえてくるまでの数秒が嫌に長く感じた。



『覚えてないなあ、酔っ払ってたし』



ああ、まあそうだよね。


真っ先に浮かんだ感想はこれだった。


"記憶がない"、"酔っ払ってたから"、なんて便利な言葉なんだろう。


自分に都合が悪くなれば、アルコールのせいにしてしまえばいいのだから非常に使い勝手がいい。



「ええ?そう言ってたのに、残念だなあ」



冗談ぽく笑ったつもりが、だいぶ乾いてしまったように思う。


彼にとっては、私の笑いが心からの笑いだろうが乾いた演技だろうが、微塵も興味はないだろう。


真上からの日差しが暑くなってきて、日陰に向かって歩きながら考える。


"お酒をのむとその人の本性が出る"とかよく言うけど、本当にそうなのだろうか。


ただ酔っ払って調子良くなんでも言えてしまうだけなのではないだろうか。


酔ってるときに言われた言葉を真に受けるのは間違いなのではないだろうか。


理性がきちんと働いている素面のときこそ、きちんと物事を考えられる本性なのではないだろうか。



その後はなにを話していたかあまり覚えていない。


なんとなく返事をしながら、どこか上の空でそんなことをずっと考えていたような気がする。


電話を終えて、一文だけLINEを送る。



「ちゃんと水飲んでおくんだよ」



送信が完了したトーク画面を閉じて、私は日陰から出てまたゆっくりと歩き出した。

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またアルコールのせいにする。 めんたいくりいむ @drop4lol

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