第48話 お似合い
梨沙子のやつ、急に何を言い出すんだよ……。
「さぁ? 勘違いだろ」
「勘違いじゃないって」
砕けた口調ではなく、真面目な口調で答えた。
「勘違いだって。好きというよりかは家族に近いと思うよ」
「鈍感だね」
冷たく言い放った梨沙子の言葉が、俺の耳を貫く。
「それとも、知らんぷりしてる?」
ヘビのように俺を見る梨沙子。
俺の目から心の奥底を読み取ろうとしてくる。
「やめてくれ」
俺は目を逸らした。すると、左から視線は感じなくなった。
恐る恐る横を向くと、梨沙子は先に見える海の家を見ていた。
これ以上、茉莉の話を進めるのは良くない。違う話をしないと。
「そ、そういえばさ――――」
「お似合いだよ。
俺の声を掻き消すほど、はっきり口にした。
「なんだよ、急に。それに吉田って、どーゆーことだよ」
「私って、結構わかるんだよねー」
「わかる?」
「恋心」
俺は口を閉じる。
例え梨沙子が吉田の本心を知っていたとしても、俺がそれを語るわけにはいかない。
俺が吉田の立場だったら、陰でそんな話されたくない。
無言が続くなか、梨沙子が突然笑い出した。
「あー、ちなみに私は昴流が茉莉のこと好きなの知ってるよ。知っているというか、気付いてる」
「へぇー。俺は何も知らないけど」
「あっそ。じゃあ今から私の独り言」
梨沙子は前を向いたまま、空に向かって言葉を紡ぐ。
「昴流は確かにかっこいいし、優しいし、勉強できる。ついでにファッションセンスが喜太郎よりも断然いい」
「唐突に
「あんな優良物件、そうそうない。でもね、そんなことは茉莉にとってはどうでもいいの。茉莉にとって大事なのは自然体でいられること、大事な時に手を差し伸べてくれること……だと、私は思うんだよねぇー。で、その2つをクリアしているのが喜太郎なだけ」
自然体。大事な時に手を差し伸べる。
そんなことをしてくれる男はこの世にごまんといる。
吉田だってそのうちの1人だ。
「それがさ、喜太郎だったんだよ。喜太郎だけだったんだよ」
茶色の木で作られた海の家に着いた。
「いらっしゃい」
色黒でアメフト部に所属しているようなお兄さんと、細マッチョのサーファーのあんちゃんが店員をしていた。ザ・海の家って感じだった。
俺はスマホのメモアプリを見つつ、注文する。
「横で待っててくださいね~!」
アメフト部にいそうな店員の指示通りにする。
じゅ~という音がレジの奥の厨房から聞こえ、ソースの匂いがこちらに漂ってくる。
ヨダレが出てくる。食欲をそそる匂いだ。
「良い匂いだな」
「そうだねぇ~。焼きそば選んで正解だった」
そう言った梨沙子は、くんくんと厨房から流れてくる匂いをかいだ。
「おいしそう~」
うっとりする梨沙子。そんな顔しながら、俺に訊いた。
「ねぇ、1つだけ質問。喜太郎はさ、茉莉のこと好きなの?」
それに対する俺の答えは1つだった。
誰かの記憶に残るような青春を送ることをおすすめします。 taki @makabe3takimune
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