第41話 【崩壊する常識】
真夕さんの決断はとにかく早かった。
ヒマラヤが普通のバーキンとは比べ物にならないほど高価である事に疑いの余地は無い。
それなのに斉藤さんがヒマラヤを私達に
『スーパーの買い物だって、もう少し時間がかかるよね。』
今更ながら私は彼女の決断力に驚いていた。
商談は無事に終わったが、真夕さんが購入した二つのバーキンを安全に持ち帰るため、斉藤さんの発案でリムジンをソニー通り沿いにある車寄せに止めてから、私達は店の外に出る事になった。
その準備と商品の
私は真夕さんがヒマラヤの購入を決めてから、ずっと何かが心に引っかかっていた。
何かが足りないような違和感があるのだが、それが何であるのか、どうしても分からない。
真夕さんと二人きりになって落ち着いたところで、私はようやく違和感の正体に
「そうだ! 会計はどうするの? 真夕さん、お金払ってないよね・・・いや、それ以前に斉藤さんとヒマラヤの価格の話を全然してなかったよね?」
「それがどうかしたの?」
「値段を聞かなくていいの?」
「もちろん聞けば価格を答えてくれるわ。」
「ええっとそうじゃなくて、何と言えば分かって貰えるかな・・・」
「変な事を聞くのね?」
『変な事を言っているのは真夕さんの方だよ!』と思わず突っ込みを入れそうになったが、ますます話がややこしくなるため、私は質問を変える事にする。
「だったら値段を聞く事もあるんだ?」
真夕さんは少しの間沈黙して考えた後、驚くべき答えを口にする。
「・・・いいえ、一度も無いわ。」
「いやでも値段は気になるでしょう、普通。」
「珊瑚は心配性なのね。そもそも実物を見れば
真夕さんの答えに勇気を得た私は、さっきから聞いて良いものか迷っていた質問を思い切ってぶつける事にした。
「
「ヒマラヤの事? 1000万円弱といったところね。」
『一千万!!』
ある程度予想していたとはいえ、それは衝撃的な価格だった。
そして更に真夕さんが追い打ちをかける。
「そういえば程度の良い中古品だと、その倍以上の値段が付くと聞いた事があるわ。」
「倍以上って・・・それもうマンションの値段だよ。」
バッグ1個が家一軒と同じ価値として扱われる現実を目の前にして、私の常識は完全に崩れ去った。
同時に私は
「ちょっと待って、新品より中古品の方が高いって事?」
「ヒマラヤの場合、お店に行っても普通は手に入らない
『なるほど、プレミア価格って事か・・・』
それでも私には
一般的に真夕さんのような人達は買い物をするのに現金を使わず、ほとんどクレジットカードで支払いを済ませると聞いていたからだ。
私は入店してから真夕さんと完全に行動を共にしていたが、真夕さんと斉藤さんはクレジットカードの受け渡しを全くしていない。
「それにしたって斉藤さんにクレジットカードとか渡さなくて大丈夫なの?」
「クレジットカード? そんなもの必要無いわ。」
「えっ・・・?」
「お金は後日、銀行口座に振り込むから気にしなくていいいのよ。」
『つけ払いなの!?』
真夕さんの話は何から何まで私の常識を超えていた。
真夕さんはカード会社の信用力で買い物をしている訳ではなかった。
彼女は橘家の信用力で買い物をしていたのだ。
「ハハハ、そうなんだ・・・」
住んでいる世界の
<真夕さんとお買い物編 了>
まゆさん ~失われたお嬢様を求めて~ 龍崎昇 @RisingDragon
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