第4話 やり残し
「ただいま~」
「お帰り。今晩は適当な炒め物なんだが良いか?」
「僕がお世話になってるんだからそんなの僕から言う権利はないよ。ありがとう」
「そっか。んじゃまぁ……ハルとでも戯れててくれ」
「わかった」
ハルとはあの猫の名前だ。
三毛猫と言われると真っ先に思い浮かべそうな見た目の子で、とても可愛い。
もうちょっと可愛いということを伝える語彙がなかったのかと言われそうだけど、可愛いものは可愛いんだもの。
ぶっきらぼうですぐそっぽを向いてどこかへ行ってしまうけれど、そういうとこが猫の魅力だと思う。
一志さんには懐いてるらしいけど……
どうしてか分からないことは本人に聞いてみよう。
「一志さん」
「どうした?」
「ハルって、なんで一志さんに懐いてるの?」
「あー……まあ付き合いなげぇし、家族みてえなもんだからな」
「それは子供とかそんな感じの?」
聞いている内に一志さんは少し寂しげな顔をしてから。
「うーん……違うな」
「そうなんだ。ありがとう」
「おう。そういや風人」
「うん?」
「……この頃お前女の子と遊んでんだろ?上手くいってんのか?」
ニヤニヤとこっちを覗き込んでくる。
「な、佑唯はそんなんじゃないよ。友達としてはともかく、恋人としては……」
友達として佑唯と遊ぶのは楽しい。
これは偽りのない本心であるし、引っ張ってくれるあの感じは結構好きだったりする。
けれど恋人になりたいかと言われるとNOだ。
僕は恋をしたことがないから分からないけれど僕から佑唯に対して、そして恐らく逆からも恋愛感情を抱くことはないと思う。
佑唯に抱いてる感情はLOVEじゃなくてどちらかと言うとLIKEってのもそうだし、何よりお互い短い命だから。
そんな時に好きになっちゃったら、僕らはきっと後悔する。
「ふーん……ま、仲良くな」
「はーい」
「そんじゃ食おうぜ。いただきます」
「いただきます。あ、このニラ美味しい」
「だろ?近所のおっさんに貰ったんだ」
「へー、こんな美味しいニラ中々ないよ」
「あのおっさん野菜に対するこだわり凄いからな。ニラ以外にもいくつか貰ってるから明日の晩飯楽しみに待っててくれ」
……………
夜。
ブーブーとスマホが鳴動する。
電話だ。
こんな時間になんだと思いながらもそれを無視することは当然しないし、ポケットからスマホを取り出す。
……ここで俺は、やり残しに気づかされる事になるとも知らずに。
「……高瀬」
春風っていうのは、やっぱり迷惑なやつだ。
春風に身を任せて イエスあいこす @yesiqos
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