第3話 夕日に映える

布団から体を起こして伸びをする。

それから朝食をして後は適当に時間を使う。

帰宅部だった僕にとって休日はテスト前を除けば大概こんな感じだ。

遊ぼうと誘われれば出掛けるし、たまに自分から誰かを誘ったりもする。

そういうがなければチマチマ勉強したりゲームしたり。

けど今になって、時間の使い方を考えさせられる。

朝起きて、伸びをして、何か食べて。

ここまでは良い。

けれどそこからどうするのか。

時間を少しも無駄にしないために、僕はどうしよう。

考えてる内にピロンとスマホが鳴動する。

佑唯から来たメッセージの内容は今日の集合場所。

場所は桜の木が並ぶ道にある一際大きな一本の木の下。

了解と一言送って外に出る用意を始める。

時間を無駄にしたくないなら、こうしていれば良いのかもしれない。

確かにただ遊んでるだけかもしれないけれど、佑唯と遊んでいるいる時間は楽しいんだから。

だからきっと無駄な時間じゃない。

ホントにそうかは知らないけど、そういうことで納得しておこう。



……………



ちょっと遅れ気味な僕は道を軽いランニングくらいの感じで走っていると、向こうで佑唯が僕に気づいて手を振っているのが見えた。


「風人ー!」


名前を呼ぶ佑唯に手を振り返しながら走るペースを上げる。


「ごめん!ちょっと遅くなった!」

「いいよいいよ、誤差だもの」

「そう言ってくれると嬉しいな」

「じゃ、今日は何する?」

「うーん……」


何をすると言われても、この村は何もない長閑さが魅力だと一通り見て回って感じた。

だからこの都会に比べて凄く良い雰囲気の代償と言うべきか、何もない。

思案していると佑唯が口を開いたが……


「虫と」

「却下」

「そう……」


恐らく虫取りと言いかけたんだろう。

しかし言わせない、即答で却下。

ちょっとシュンとしてしまったのは申し訳なく思うけど、どうしても虫だけは……!


「じゃあアレやろっ!アレ!」

「アレ?何それ」


何かを指差してる訳でもないし……


「アレはアレだよ!」

「……あ、あー!アレね!」

「そうそう!アレアレ!」


アレとやらを理解できないのがなんだか恥ずかしくなってきて、嘘をついてしまう。


「アレか!よし!やろう!」

「ところで風人、一つ質問いい?」

「何?」

「……アレって何?」

「適当言ってただけなんかい!」


……念のために言っておくと、僕は関西の人間ではない。



…………


「じゃあ、帰るね」

「うん、また明日」


色々あってあれからは水切りを延々とやっていた。

最高記録は佑唯の29。

あの瞬間は佑唯が人間なのかどうかを真剣に疑った。


「ばいばい!」


僕の方を向きながら歩いていく。

道の向こうには夕日が輝いている。

それに照らされてる佑唯の笑顔に少し可愛いと思ってしまったのは、ここだけの秘密だ。

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