第2話 風はまだ吹き始め
「風人~!ここ来て!」
「言われなくても行くから!」
出会って一時間程。
早速佑唯の活発さに振り回されまくっている。
東京にも友人はそれなりにいたけど、こんなに活発で騒がしい人はいなかった。
だからちょっと新鮮で、なんとなく楽しい。
と、思ってたけど……
「見て見て!こんなおっきいミミズ中々いないよ!……ん?風人?」
「ギャアアアアアアアアア!!!!」
ニョロニョロしたやつとか虫を極端に苦手とする僕にとって、そのやけにでかい姿は生理的嫌悪と恐怖を掻き立てるのには十分すぎた。
「ちょっと!どこ行くの!」
「ミミズがいないならどこでも良いよ!」
「じゃああっち!理由ないけど!」
ないんかい。
そうツッコミたくなるのを抑えてその方向へ。
「散々な目に遭ったよ……」
「ミミズ、可愛いのに」
「そう思えるのは尊敬したいな……」
ぷくうと頬を膨らませる佑唯。
それにしても距離が近い。
まあ、お互いどうせ最期の一ヶ月なんだ。
おもいっきり楽しめる関係じゃなきゃ、楽しくないよね。
そういえば、もうそろそろ夕方だ。
「帰らなきゃ」
「そっか、もうこんな時間だもんねあそうだ、明日も遊ぼっ」
「構わないよ。連絡先交換しとく?」
「うん!しとこしとこ」
携帯をシャカシャカするあれをやって僕たちは解散する。
ちょっと佑唯が遠くなった辺りで……
「今日はありがとー!またね明日!」
まさかの向こうから叫び声。
さっき言いなよ……
でもそれになにも返さないのは悪いよね。
「こちらこそ!また!」
手を振って、今度こそお互い家路についた。
「明日、かぁ」
当たり前のように明日のことを話してたけど、それができる猶予もそんなにないんだよね。
まあでも、これでいいや。
過度な幸せは願わなくていい。
人生をひっそり終えるには、多分、ささやかなくらいが丁度いい。
……………
「ただいま戻りました~」
「おう、お帰り。あと敬語は別にいい、一緒に暮らすには堅苦しいだろ?」
「それもそっか……じゃあただいま、一志さん」
帰宅早々ため口になる。
なんとなくここでも優しい人なんだなぁと実感する。
「晩飯、焼き魚で良いか?」
「うん。何でも大丈夫だよ」
「今のシチュエーションなら良いけど、普段なら何でもいいは一番困る回答だから気をつけな?」
「はーい」
喋りながらちょっと家のなかを見渡していると。
ニャー
「……猫?」
「言ってなかったな、猫飼ってんだ。猫いけるか?」
「全然、むしろ大好きだよ」
普段から可愛い猫だが、あのミミズを見た後だと八割増しで可愛い。
僕の心に確かな癒しを与えてくれる。
でもちょっと見つめ合ったかと思えばぷいっと別の方を向く。
猫って、こういうとこが可愛いんだよねこういうとこが。
そんな可愛さと焼き魚の美味しさに包まれて、僕の最期の一ヶ月、初日は終了した。
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