お前に嘘はつけない

水天使かくと

お前に嘘はつけない

俺は高梨 蓮。高校3年生。

小さい時、親同士が勝手に決めた婚約者がいて、その婚約者にいつも身も心も縛られて、何をするにも自由がなかった…。

もちろん恋愛も…。


そんな時、1年に幼馴染という男女2人が入ってきて、俺はその彼女にの方に、近づいた。彼女は可愛いって感じだったが、特別な感情はなかった。

ただ、彼女を困らせてやりたかったのかもしれない。

結局、俺の思いどおりになるどころか、幼馴染2人はそれがきっかけで、彼氏彼女になった…。

それって俺のおかげじゃないか…。


まぁ、そいつらのおかげもあってか、婚約者も今の俺達の状況に疑問をもったのか、婚約を解消してくれた。


婚約者には恋人って感情より、姉という感情が大きく、ずっと違和感があり、受け入れられなかったんだと思う。


今、俺ははれて身も心も自由になったんだ。恋愛も自由だ。


ってなわけで、俺は今、学校でモテモテだ!昨日は


色白でサラサラした茶髪の髪、身長180㎝のすらりとした体型。おまけにサッカー部のキャプテンとくればモテないわけがないらしい。女子がいうには少女漫画にでてくる白馬の王子様…らしい。


まっ、俺にはどうでもいいが、女子にモテるのは単にいい気分だ。


今日も女子達に囲まれながら帰っている。


女子①「ねぇ、蓮くんってどうして、彼女つくらないの?私、いつでもなってあげるのにー。」


女子②「あーん、蓮くんは私とつきあうの。」


女子がざわざわ騒がしくなる。


「まあまあ、みんな。俺はみんなのものだし、こーんなかわいい女の子たちから1人を決めるなんてできないよ。ね。わかった?」


女子全員が静かになり、うっとりしている。


まっ、こんな感じを楽しんでる。

女の子は好きだけど、彼女…となるとどうも気がのらない…。

というか本気で好きになった女の子がいないってだけかもしれない。


勝手な婚約のことで、自由がほとんどなかったこともあり、昔から両親にも反抗的だった。だから人に本気で心を開いたことがない。


そんな俺が人を好きになれるんだろうか…。

そんなことを考えている俺…嫌いだ。


ふと、校庭の片隅に、1人の女子が木を眺めながら、絵を描いている姿が目がとまる。

立ち止まり気をとられていると、まわりの女子生徒の1人が…


女子①「どうしたの?高梨くん。んっ、ああ。あの子は同じ3年の梅野 鈴よ。しかも同じクラスよ。」


「梅野さん…。3年?同じクラス?知らなかった…。」


女子②「そう。いつもああやって1人で絵を描いてて。ちょっと変わってるって…。」


「変わってる?」


女子①「そうそう。なんか…とくに人の絵を描いてるとみた目と違う感じに描いちゃうんだって。なんか気味悪いよね…。」


「ふーん。」

といいながら、その女子に目をやった。


髪は肩ぐらいのストレート。黒ぶちの眼鏡をかけていて小柄な女の子。なんだかリスとかハムスターみたいな小動物っぽい感じ。


木をよくみると鳥がいて、それを優しい目で描いていた。


俺はとくに何も思わなかったが、その光景をみて気味悪いどころか温かい光景に思えた。


数日後…。


俺は美術の先生に呼び出された。


「高梨くん、お願いしたいことがあるんだけどいい?」


「なんですか?美人の先生の頼みだし、俺にできることならいいですよ。」


「ほんと!実は美術の授業で人物画をかいてもらうんだけど、女子達が高梨くんを描きたいってゆうのよ…。みんなもう、その気になっちゃってて。どう?」


先生はちょっと申し訳なさそうに頼んでくる。へるもんじゃなく、俺はべつにかまわない。


「いいですよ。その代わり、モデルをやるとなると俺は描けないんで、そのへんはちゃんと評価に入れといてくださいね。」


「もちろん!ほんとに助かる。ありがとう。じゃ、次の美術の授業によろしくね。ポーズは高梨くんに任せるから。」


といい先生は足早に去っていく。


モデルねぇ…こんな機会めったにないしいいか。


美術の授業当日。


美術室での準備がすみ、モデルになる俺が教室に入ってくるなり、女子達が騒がしくなる。


そんな中、あの子…梅野 鈴の姿を見つける。後ろのほうで、目立たない席にいる。


俺は真ん中の席に座る。

そして、足をくみ、手はあごに添えながら俺様的な挑発ポーズで微笑み構えた。


女子達の黄色い声はしばらく続いたが、そのうち、静かになりみんな俺を描くことに集中している。


ただ、梅野 鈴だけは少し動揺し、躊躇している様子もみてとれたが、そのうち静かに描き始めた。


終わりのチャイムがなり、終わった…。

じっとしているってのは、けっこう疲れるもんだな…。

先生が生徒のスケッチブックを集める。


ふと、梅野に目をやると不安そうにスケッチブックをだすのをためらう様子だったが、先生にうながされ提出した。


何をそんなにためらうんだ?と思いながらも、美術の授業は無事終わった。



翌日、また美術の先生に呼び出された。


「高梨くん、この前はありがとね。みんなとっても生き生きかっこよく描いてくれてたわよ。ただ…。」

と先生の口がこもる。


「ただ…なんですか?」


「梅野さんの描いた絵がちょっとねぇ…。」

と見せてくれる。


「んっ?」


それは、確かに俺なんだけど、暗がりの窓のそばに立たずんでいて、悲しげな表情で窓の外を見つめている…。

そんなちょっと重苦しい感じの俺だった…。


「先生…俺、こんなポーズじゃなかったですよね?」と先生に聞く。


先生も少し困った感じで…


「そうなの…。梅野さん、人物画を描くとこんなふうに見えてるものと違うものを描いてしまうことがあるの。だから、しばらく人物画は止めるようにしていたんだけど…。」


だからあの時、出すのに躊躇してたのか…。

「先生、この梅野のスケッチブック俺から返してもいい?」


「えっ、いいけど…まさかお説教とかするんじゃないわよね?」

と先生は心配な表情を向ける。


「しませんよー。そんなこと。ただ、彼女には何が見えてたのかをちょっと聞いてみたくて。俺は女の子には優しいんですから!」

と笑ってみせた。


先生も納得したようで、俺にスケッチブックを渡してくれるよう頼んできた。

内心は複雑だったが…。



翌日の放課後、梅野 鈴の姿をさがすが教室にいない。

俺は梅野のスケッチブックをもって、あちこちさがした。

あっ、そうだ!校庭か…。


走っていってみると、やはり梅野がいた。

また、木にとまっている鳥を描いているようだった。


後ろからそっとのぞきこむ。

2羽の鳥をみたままの姿でていねいに描いている。


「へぇー。うまくかけてるじゃん!」


「きゃっ!」

と梅野はかなりびっくりしたようでペンを落とした。鳥たちは逃げていってしまった。


「ごめん…びっくりさせて。驚かすつもりはなかったんだ。はい、ペン。」

と落としたペンを拾って手渡す。


「い、いえ…すみません。ありがとうございます…。」

といいつつも動揺して落ち着かない様子だ。


「なんで敬語?3年でクラスも同じなんだからふつうでいいよ。」


「う、うん。」

少し落ち着いてきた様子だ。


「ねぇ、きみ、梅野 さんだよね。俺のことは知ってる?」


「同じクラスの高梨くん…。ちゃんと知ってるよ。」

と少しほほえみながら答える。


「横に座っていい?きみに話したいことがあって…。まずはこれ返すよ。先生から渡しといてって。」

梅野は俺の顔をみて、少しとまどいながら受け取りうつむく。


「ところでさ。その絵…。俺…だよな?」


梅野は話の内容を悟ったのか…急に立ち上り


「ごめんなさい…。びっくりしたよね…気味が悪いよね…提出しないほうがいいとおもったんだけどもう遅かったの…。」


俺に頭を下げてきた…。


「おいおい、俺は怒ってなんかねぇよ。ただ、なんでこんな絵を描いたのか知りたいだけなんだ…。わかるか?とにかく座って。」


「うん…。」

梅野はゆっくり俺の横にすわる。

緊張してるのがすぐわかり、なんだかこっちのほうが申し訳ない気持ちになる。


「そんな固くなるなよ。俺がいじめてるみたいに思われるだろ。俺は女の子には優しいから安心しな。」

こんなタイプの女の子は初めてだから、正直、ペースが乱される。


「で、さっそくだけど、その絵のことを教えくれる?俺、こんな感じでポーズとってたよね…?」

とあの時と同じに足を組んで、手はあごにあてポーズをとってみせる。


「うん…。えっと…。たしかに見た目はそうなんだけど、私が描く時にはその人の内面…というか心の奥に秘めてるものが強調して見えてくるの…。それをイメージして描いたら…。」


「じゃあなに?俺はこんな感じで何かに悩んでるっていいたいの?あんたに俺の心がわかるってのかよ。ふざけんな!」


俺は自分の心の中を見透かされたような、なんともいたたまれない気持ちになり、つい彼女にきつい言葉あびせてしまった…。


「・・・」

梅野はビックリして声も出ず、目を見開きながら怯えて固まっている。


俺は立ち上りその場から足早に立ち去る。


俺はなにやってんだ…。女の子相手に余裕をなくすなんて…。最低だ…。

ただただ梅野に申し訳なかった…。


でもなんで彼女に気づかれた?

誰にも心をひらけない俺の孤独な心を…。

表向きにはそんなこと微塵もみせずにうまくたちまわってただろ?隠してきただろ?

何がいけなかったんだ?

そんなことを考えながら、俺はあきらかに動揺していた…。



翌朝、俺は梅野のことを考えていた。

動揺していたとはいえ、女の子にひどい言い方をしてしまった…。

はぁ、何が女の子には優しい…だよ。

あんなに怯えさせて…。

とにかく梅野に会ってちゃんと謝ろう…。


教室に入り俺は梅野の姿をさがすがいない。

今日は体調が悪く休みだという…。

きっと昨日のことが…。


俺は担任にお願いし、渡すプリントなどを届けることを申し出た。

彼女を傷つけてしまったんではないかと気になって仕方なかった…。


学校がおわり、プリントなどをもって梅野の様子をみに自宅へいく。

俺なにやってんだ…。はぁ…。ちょっと気重になる。


「ここか…。」

ちょっと躊躇するも、インターホンを押す。

母親の声がして、しばらくしてから母親が玄関から出てきた。


「俺、梅野さんと同じクラスの高梨 蓮といいます。これ学校からです。梅野さんお渡しいただけますか?」


「わざわざありがとうございます!ところであなた、鈴のお友達?」


と母親にそう聞かれ、少し戸惑ったが…

「…はい。梅野さん体調いかがですか?」

と答えた。


すると母親は

「まぁ、そうなの!鈴のお友達なのね。実は熱とかはないんだけど昨日帰ってきてから、様子がおかしいの…。何か知らない?」


「え…いえ、知りません。すいません…。」

俺は何も知らないふりをしたが罪悪感もあった…。


すると母親が

「あっ、そうだ!せっかくきてくれたんだし、鈴に会ってあげて。きっと元気でると思うわ。さ、どうぞ入って!」


いやいや、それはまずいでしょ。

俺はなんとか断ろうとしたのだが、母親のテンションの高さとおしの強さに負け、彼女の部屋の前に通された。

まずい…なんでこんな展開に…。


「鈴?鈴ちゃん。今ね、同じクラスの高梨くんがお見舞いにきてくれてるの。」


ドアの向こうで

「えっえっ、うそ?うそでしょ。」


「ここにきてもらったの。入ってもらっていい?」といいながら母親は躊躇せずドア

をあける。


「鈴ちゃん、こんなかっこいいお友達がいたなんて、お母さんうれしい!高梨くん、どうぞ!」と母親は嬉しそうにいう。


女の子の部屋にいきなり入っていいのだろうか…と俺は躊躇したが、テンションの高い嬉しそうな母親にうながされ、彼女の部屋へ入った…。


「じゃあ、ごゆっくり!」

母親は笑顔でドアをしめる。


俺はベットで座ってる彼女と目が合う。

「よ!体大丈夫か?」


「う、うん…熱はないし大丈夫…。」とうつむく。なんだかぎこちない。


「あ、そうだこれ。担任から預かってきた。」といってプリント類を渡す。


「ありがとう…。あっ、よかったら座って!私、パジャマだからここでごめん…。」といって首まで布団をたくしあげる。


俺は少し距離をとって座る。

そして…


「梅野…。昨日はごめん。俺どうかしてた。女の子にあんなきつい言い方をするなんて…自分でも驚いてる。ごめん…。」


梅野は目を丸くして驚いてる様子で


「なんで高梨くんが謝るの?高梨くんはなんにも悪くないよ。悪いのは私…高梨くんを傷つけた…不快にさせた。ごめんなさい…。」


「梅野、あんたが描いた絵…あれはたぶんほんとの俺なんだ。俺の心はよどんでる。それである女の子をほんとに傷つけてしまいしそうになったことがあるんだ…。未遂に終ったけど…。」

俺はなんでペラペラとこんなことをしゃべってるんだ?


「高梨くん…もういいよ。」と梅野が目を閉じてうつむいている。


俺はさらに続ける。

「いろいろあって、俺は変われたと思ってたけど、そうじゃなかったみたいだ。俺が密かに悩んでること、それは本気で人に心をひらけないことなんだ…。それをあんたに見透かされてしまったから動揺した…。」


俺は梅野だから話せているのか?


「私は…高梨くんを傷つける気なんてなかった。誰だって人に知られたくないことはあるもん。もう、誰も傷つけたくないから、人の絵は2度と描かないって誓ったのに…。ごめんなさい…。」


「いや、違うんだ!そんなつもりでいったんじゃない。」俺は必死に弁解したが、彼女の表情は変わらなかった…。


「中学の頃、私は親友を傷つけた…描いた絵のせいで。それ以来、親友は不登校になり、転校したの…それっきり…。さよならも言えなかった…。」

梅野は目に涙を浮かべている…。


「お、おい…。」俺は焦って立ち上り、梅野のほうへ歩み寄る。

ベットの脇に膝まずき、梅野を見つめる。


「辛いこと思い出させて悪かった…。」といいながら俺は梅野をそっと抱きしめていた…


梅野ははっと我にかえり、俺を押しのけた。

「な、なに…?」


体が勝手に…おい!俺はなにやってんだ?

「ご、ごめん…。そんなつもりじゃないんだ…ただ体が勝手に動いた!悪い…。」


お互いに気まずい空気が流れた…


「高梨くん…今日はもう帰って。高梨くんのことは誰にも言わないから。絶対、絶対に秘密にするから…。」といい、精一杯の笑顔で人差し指を自分の唇に軽くあてるしぐさをする。


か、かわいい!なんだ…この気持ち…。

こんなんで動揺してんじゃねえよ…俺。


俺はいう通りに、母親に挨拶をして足早に家路についた。


のちに、そんな梅野をいとおしく思う自分に気づくのにそんなに時間はかからなかった…



翌朝、教室に着くとちゃんと梅野がいた。

もう、大丈夫なんだな。


「おはよう。昨日はいきなり押しかけて悪かったな…。もう大丈夫なのか?」


梅野は無表情で「ありがとう。もう大丈夫。」とさらっと言った。

なんだか昨日と様子がおかしい…。



放課後いつもの場所で、絵を描いている彼女を見かけ再度、声をかけた。

「梅野…なんかあった?昨日とは様子が変だけど…。」


「私は絶対に秘密にするってゆったよ。だからもう私にかかわらないで。でないと私、いつかまた高梨くんを傷つけると思う。」


というなり立ち上がり、去っていこうとする彼女の腕をとっさにつかみ引き寄せる。


「待てよ!俺は黙っててほしいなんていってない。ってゆうか、俺の本当の気持ちに気づいてくれたのあんただけなんだよ。ずっと誰かに気づいてほしかったのかもしれない…」


彼女が目を丸くして見つめている。


「私は……。」


といい、腕を振り払おうとする彼女を俺は

強引に引き寄せ後ろから抱きしめた…。


「梅野…好きだ…逃げないでくれ。こんなふうに誰かを好きになったのは初めてなんだ。俺のそばにいてほしい…。」


「何いってんの?こんな私だよ…だめ…高梨くんとなんてつりあわないよ。」


「誰がなんと言おうと俺がいいっていってんの。後にも先にもお前しかいないんだよ!」


少し間をあけてから


「じゃ、1つお願いがあるけどいい?」


「なに?なんでもどうぞ。」


「私にもう1度、高梨くんの絵を描かせてほしいの…。私も過去をのりこえたいから。」


「わかった…。」



俺は美術の先生にお願いし、放課後美術室を借りた。

そこで、前と同じポーズをとってみせる。


「準備できたぞ。」

「うん。」


おれは目の前の梅野をまっすぐにそしていとおしくみつめた。

こうやってみると、けっこう可愛いじゃん!


そんなことを思いながら彼女をみていると、

お互いに目が合い、彼女は顔を少し赤らめ照れていた。


俺は…そんな彼女が可愛く思え、今すぐにでも抱きしめたい気持ちだった…。


時間がたち、彼女がペンを置いた。


「できたのか?」

彼女がゆっくりうなずいた…。


俺は彼女の方へ向かう。

彼女が俺をみるなり、優しくほほえむ。


彼女の描いた俺の絵はみたままを描いてくれていた。一寸の暗闇もなく…。


「高梨くん、もう心の迷いは消えてるみたい。よかったね!私もね、人の絵をかくの怖くなくなっちゃった。」

と梅野が満面の笑みをみせる。


「お前のせいだよ。もう、俺の心の中に…お前がいるから…。」


「高梨くん…。」と頬をほんのり赤らめる。


「とにかくよかったな!お互い迷いもふっきれたし、もう我慢しなくていいよな?」


「えっ!」

俺は彼女の腰を抱きよせ、あごをそっとひきよせる。


「さっきの返事は?OKならキスするけど…。」


彼女が見つめながら小さな声で「はい…」


木漏れ日がさしこむ中、俺は優しく彼女にキスをした…

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