6(終)

ヤスオへ


 久しぶり。元気してたか。

 この前は悪かった。あの時はむしゃくしゃしてて、つい勢いであんなこと書いちまった。ほんとごめんな。

 あの後色々考えたんだけどさ。俺、旅に出ることにした。

 もっと色んな場所を見に行くんだ。京都に沖縄。海を渡ってハワイなんかもいいな。

 やっぱりさ、ここにいたら退屈だ。それに、世界にはきっと、俺の見たことも無いすごいものが、まだたくさんある。

 この部屋にも、もう来ないつもり。万年筆は適当に処分しちゃっていいよ。売ればそこそこの値段になると思うし、その金で良いもんでも食ってこいよ。

 今までの手紙も捨ててくれ。早く忘れたほうがいいぜ。それがお前のためだ。

 じゃあな。ちゃんと生きてくれよ。


ジュンより




ジュン


 もうお前はこれを読むこともないんだろう。それでも、書かずにはいられない。

 ふざけんな。

 勝手に過去形にして、それでいいと思ってるのかよ。

 お前はいつも本当のことを隠して、それで今までうまくやってきたんだろう。でも今回はそうはいかない。

 自分が消えればすべて解決するとか思ってるなら大間違いだ。

 でも、お前が決めたことだ。俺にはもうどうすることもできない。

 せめて最後に、顔を見たかった。声を聞きたかった。叶わない願いだけどな。

 俺はまだ待ってる。 万年筆はテーブルの上に、メモ用紙と一緒に置いてある。お前からの返事が来るまで、ずっとだ。

 忘れるわけがない。忘れられるわけがない。

 返事をくれ。どんなに先になってもいい。

 待ってるからな。


ヤスオ

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幽霊から来た手紙 あおきひび @nobelu_hibikito

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