第5話 こくはくさん、私の想いは届きますか?

 8月20日。

 午前中はツカサ先輩の家で勉強をすることがすっかり日課として定着してきたけれど、お互いたまには用事がある。私は今日家族と出かけていた。夕方家に帰ってきて、さて勉強するかと数学の問題集を……問題集を……? しまった、先輩の家だ! 先輩の家にほぼ毎日行くから、一部の教科は置かせてもらってたんだった。

 時計を見ると16時。夜ご飯までにはまだ時間あるし、いきなりお邪魔しても失礼な時間じゃないはず。ひとまずLINEを入れてみたけど、既読がつかないので直接行くことにした。


 自転車で神社まで走る。入り口に停めて、境内を歩いていく。そういえば夕方の神社は初めてだ。夏特有の少し切ない匂いがして、なんだか心細くなる。


 ツカサ先輩に会いたい。

 ふと、そう思った自分に驚いた。予想外の気持ちが浮かんだ胸にどぎまぎしながら進んでいると、よく見知った制服が見えた。


 ツカサ先輩だ。

 心臓が跳ねる。そんなわけはないのに、心を読み透かされたような気がした。早鐘をうつ心臓の音がうるさくて、顔も赤くなっているような気がして、私は思わず木の陰に隠れてしまった。陰からそっと覗き見る。

 先輩は『こくはくさん』の前に居た。先輩が一礼し、『こくはくさん』に背を向けた。

 そして……お賽銭を投げた。


 私が見たのはそこまでだ。

 お賽銭がお皿に入ったのか、それとも入らなかったのか、結果までは知らない。先輩がこちらを向いた時の、祈るような、切ない表情。夕陽に照らされて、橙色に染まった白いセーラー服。

 見ていられなくて、走った。

 砂利の音で、きっと先輩は私が居たことに気付いたと思う。


 先輩、好きな人、居たんだ。知らなかったな。

 ……自分が、こんな気持ちになるなんて、思わなかったな。

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こくはくさん 湯前智絵 @yunomae

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