リベンジ

芥川龍之介は広大な田圃地帯の前に立っていた。作業服に田植え靴、麦わら帽子を身につけて。

「今年も田植えの季節がやってきましたね。」

隣に立った宮沢賢治が言う。彼も芥川と同じ出で立ちだ。ポートマフィア首領との決闘以降も芥川は探偵社員として生きていた。そうして日々様々な荒事に巻き込まれる中、先日同僚の賢治に田植えに誘われたのだ。昨年はトラブルのせいで半数ほどしか収穫できなかった。そのリベンジの意味も含めて芥川はその誘いに乗って来たのだ。

「田植えの方法は覚えてますか?」

「問題ない。今年は全て収穫する。」

賢治の問いかけにそう答えて芥川は田圃に入っていく。それに続いて賢治も作業に取りかかる。

「芥川さんがいると助かります。すばらしい異能です!」

作業を続けながら賢治が感嘆の声を上げる。実際、作業はスムーズに進んだ。昨年の経験から田植えの手順は心得ていたし、異能で田植えをするコツも掴んでいた。

「今年も収穫できたら一割ほど分けてもらえることになっていますからそれを楽しみに頑張りましょう。」

「ああ。今年は必ず守り抜いて、全て収穫する。」

「ふふ、やる気十分ですね。頼もしいです。そういえば、この品種知ってますか?コシヒカリっていうんですけど。」

「知らぬ。貧民街では食えるものなら全て食ってきた。食い詰めている時に食い物に関心を持つ余裕など無かった。」

「そうでしたか。じゃあ、これからはたくさん美味しいものを知ってくださいね。このコシヒカリもとっても美味しいので。僕らが育てる僕らのコシヒカリです。」

「僕のコシヒカリ。」

そう呟いた芥川の顔にはいつもの分かりづらい表情の中にかすかに希望の光が見られた。その様子を微笑んで眺め、賢治は作業を続けた。


 ―秋。稲の収穫が終わったと連絡があり、米が送られてきた。大きな仕事も無かったため、賢治とともに昼食としてその米を食べることとなった。

「うーん、どうやってこのお米を頂きましょうか?そのまま、おにぎり、海苔と一緒に・・・」

賢治は目の前の米とにらめっこして真剣に頭を悩ませていた。そこへ遅れて入ってきた芥川が不思議そうに訊く。

「これは何だ?」

賢治が振り返ると芥川は何かの袋を持っていた。米と一緒に送られてきたもののようだ。袋には〈茶漬け〉の文字。

「わあ!前田のお姉さんが一緒に送ってきてくれたんですね!」

喜ぶ賢治と対照的に訳が分からないといった様子の芥川。

「芥川さん、茶漬けって食べたことありますか?」

と訊く賢治に芥川は首を振る。

「じゃあ、今日は茶漬けで頂きましょう!芥川さんもきっと気に入りますよ!」

そう言って賢治は給湯室に消えていく。戻ってきた賢治の盆には二人分の茶碗。

「はい、どうぞ。こちらが茶漬けです。熱いので気をつけてください。」

そう差し出された茶碗には、梅干しに刻み海苔、鶏肉。それらが熱い白湯に浮かべられ、塩昆布が添えられていた。一口食べた芥川に賢治が訊く。

「どうですか?」

「・・・美味い。」


 書類整理をしていた国木田はある書類に目が止まった。備品購入の書類だ。記入主は芥川。普段こういった書類業務には関わらないはずだが・・。不思議に思い、本人に訊く。

「おい、芥川。この書類なんだが、何を購入したんだ?」

一瞬頭を巡らせた後、芥川は当然のように答えた。

「あぁ。茶漬けだ。乱歩さんの菓子の隣にストックを置いてある。」

「・・・。はあああああ!?」

その後しばらく国木田の怒声が響き渡った。

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