狂乱獣道
オダ 暁
第1話
『この世のあらゆる生物は独自の生を全うしている。だが実は陰のボスに翻弄されている危うい存在なのだ。そのボス、つまり人間の唯我独尊時代も宇宙人かゴキブリにいつの日か取って代わられることだろう。』
うららかな秋の日。
天高く馬肥ゆる、そのデブな馬と、靴が大好きな外反母趾のタコ、歯槽膿漏と失禁に悩むコブラ、痔を患ったダチョウが寄り合って、物議をかもしていた。
議題は今の世の中をいかに良くしていくか、だ。
馬は、むしゃむしゃニンジンを食いながら、
「ぜいたくは敵です、靴なぞワラジがあれば十分」
とタコをにらみつけて言う。
「ああら、そんなことおっしゃるなら少しダイエットなさったら?この間の健康診断でまた数値が上がったんですってね。それって贅沢病でしょ」
タコはふんと鼻を鳴らして、炭を吹き出し、足の指に黒いペディキュアを塗りはじめる。
「そうれより老人対策に力をいれてほしいな、高齢社会に突入しているんだから」
コブラの弱々しい声。
「くしゃみしただけでモレるし、自慢の牙は抜けそうだし・・・全くお先真っ暗だよ。昔の栄光がなつかしいなあ」
その時、とつぜん
「あいたたたた」
とダチョウが尻を押さえて叫んだ。
「く・・く・・痔が急にうずいてきやがった、朝のカレーが悪かったんだ。辛いものは出すなとあれほど言ったのに、女房の奴め、自分の好物ばかり・・」
ダチョウの毛むくじゃらな体に脂汗がだらだら流れる。
「大和撫子と結婚すればよかった、三指ついて夫を出迎えるような・・そうだ、今こそ女性教育の見直しをすべきだ」
「それって男尊女卑じゃない?やーね、時代錯誤だわ」
爪にフーフー息を吹き掛けていたタコが、唇をとがらしてダチョウにつっかかる。
「うるさい、¹イメルダ!」
「なんですってえ、毛皮にするわよ」
「おまえこそタコ焼きにして食ってやる」
騒然となったその場に、三味線をかかえた猫バンド<ニャンキーズ>が登場。
「おやめなさい、世界はひとつです。それワンツー」
ボス猫の指揮に合わせて、いっせいに猫たちはダンスをしながら歌いだす。YMCA~YMCA~馬とコブラとタコとダチョウも、つられて歌い、しまいには皆で踊りだす。これこそ至福、嫌なことは忘れてパーといきましょう。しかし世間はやはり甘くない。パンツをはいた、ずる賢い脱毛症のサル群が現れた。
「おまえたちに自由はありません、世界は我らのものです」
あわれ、無力な彼らはあっという間に捕らわれてしまう。そうして地球は、エゴイストな、進化したサルの惑星になりましたとさ。めでたし、めでたし・・・
¹ 「イメルダ」 フィリピン大統領夫人、狂的な靴のコレクション家。
狂乱獣道 オダ 暁 @odaakatuki
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