第20話 From now on(20)
「そんなに。 緊張しなくてもいいよ、」
結城はふっと笑った。
「え・・」
「おれは。 別にキミによこしまな気持ちもって誘ったわけじゃないし。 ただ・・無理ばっかしてるなって思っちゃったから。」
その笑顔に心が揺れた。
「休みの日とか。 何してるの?」
話を変えるように言われて、
「え・・家のことしたり、」
戸惑いながら答えた。
「友達と遊びに行ったりしないの?」
「・・友達とは時間が合わなくなっちゃって。 自然に会わなくなって。」
わざと
楽しいところから遠ざかってる気がした。
「友達にならない?」
頬づえをついて結城は笑顔で言った。
「は・・?」
「別にそっから切り込んでいこうとかじゃなくて。 たとえば。 なんかグチりたい時とか。 むしゃくしゃしたことがあったりしたときに一緒に飲むとか。 電話するとか。」
「い・・意味がわかんないです、」
あゆみは心で後ずさりをした。
「自分で言うのもなんだけど。 けっこう楽しいと思うよ。 おれと友達になると、」
結城はおかしそうに笑った。
「・・結城さんはすっごい有名な高級料亭の息子さんだって・・聞きましたけど、」
あゆみは有吏から聞いた話を思い出した。
「あたしなんか・・所詮水商売だし、」
うつむく彼女に
「そんなの。 おれの死んだオフクロ。 芸者だったし。」
笑い飛ばした。
「は?」
「水商売じゃない。 立派な。 ウチのばあちゃんは芸者さんたちに三味線の稽古つけたりしてたから、子供の時から芸者さんに囲まれてたし。 そういうのキライじゃなかった。」
意外だった。
「けっこうワケありの人いたし。 それでも明るくってね。 威勢がよくて。 かわいがってもらったよ。 女の人って強いんだなあって子供心に思った。」
少しだけ、力が抜けた。
「お母さんが・・」
「結婚したはいいけど、結城の家のおばあちゃんがほんっと厳しくてね。 女将修行もハンパなくて。 元々心臓が悪かったからそれで逝っちゃったのかなあって。 おれが小学校2年の時。」
「え・・じゃあ、さっきの妹さんは、」
「二度目の母親の娘。 まあ、異母妹だけどね。」
ポケットからタバコを出した。
「タバコは控えるんじゃないんですか?」
あゆみはクスっと笑った。
「え? あ~、あいつの前だけ。 ほんと女の子ってあんなうちから色々うるさいっつーか、」
「男の子よりも精神的に大人になるのが早いんです、」
「そうそう。 その笑顔。 せっかくかわいいんだからさ。 いつも暗い顔してたらもったいないよ、」
「なっ・・」
あゆみは赤面してしまった。
「平気でそういうセリフを口にするのが怪しいんですよ、」
「怪しまれてたのかよ・・」
結城も笑ってしまった。
彼女を送り届けて、部屋でウサギにエサをやっているとケータイが鳴った。
「ん・・?」
『今日はごちそうさまでした。 これからも有吏のことをよろしくお願いします』
あゆみからだった。
それにふっと笑いかけた。
別に何も変わらない。
今までと同じ空気で
誰も二人の変化には気づかなかったけれど。
小さな小さな何かが動こうとしているようだった。
My sweet home~恋のカタチ。13 --marigold-- 森野日菜 @Hina-green
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