ネコ オンジ跡編
追跡者と物淋しい岬 1
時刻は明け方。
ところは、
「イバちん。もうそろそろだのん?」
「うむ。あの山を越えれば、もうすぐ
冬晴れの気配漂う朝焼けの空、ひらひらと舞う
ここまで、「
対象者の位置を示すはずの針は、プルプルと振られたように揺れてあてにならず、発光の色も変化するが規則性が見られない。
「ナ行・色見」の術は、「色を数値として認識できる」、ナ行識者の初歩術。
そんな色見の術、ましてや使い手が当代の識者大師であれば、微々たる色変化も逃さず捉えることができたが、前述のとおり、追跡行は順調とはいかなかった。
一方向に進んでいって数値が下がっていくこともあれば、ほとんど変化のないときもある。ひどいときには、こちらの方向だと当たりをつけて進んでいくと、急に青数値に反転することもあり、探しビトを尋ねられるという
かつて、明良が
それが一変したのが、昨晩の
右往左往しながら辿り着いた
『これは……、もしや、オンジかもしれんの……』
オンジ。三十年前に存在した町。名づけ師トジロに聞かされた、悲劇の土地。何者かに壊滅させられたというその場所は、いわば、この騒動の発端であろう。
それまで、どうにか辿ってきた道のりは、
そして、その予想は当たっていた。
「遺物はどうだのん?」
「……針は相変わらず安定せんが、光は……、うむ、赤味に変わってきおったぞ。もう近いようじゃ」
絨毯は尾根を飛び越え、一同の視界が開ける。
遠く望む大海。草木もやせ細ったような荒涼の大地。段々と明けゆく空ではあるが、眼下においては山が影となっており、
「海がキレイだのん……。水平線に、まだ星も見えるのん……」
未踏の地の光景に目を輝かせる少女大師だったが、傍らのネコがあまりに静かなままなので、「クミちん」と
「もう少しだのんよ、クミちん」
「あ……、うん……」
「もうすぐで、ベリルちんの
「うん……」
気のない返事に首を傾げるニクリは、ネコの
その紙面は、依然としてまっさらなままだった。
「美名ちんたちからのお返事、来なくて心配なのんね……」
「うん……。『これからゼダンに会う』ってのがあったっきりで、ひとことも返ってこない……。なにかあったとしか思えないわ……」
ヒゲ毛をへたらせるネコに「むむ」と表情を曇らせかけるニクリだったが、ふと、「ダイジョブだのん」と快活な声を上げた。
「美名ちんも明良ちんも、バリちんもグンカちんも、みんなメキメキだのん! ダイジョブだのん!」
「……メキメキって、なに?」
「メキメキはメキメキだのん! だから、心配しなくてダイジョブのん! ゼダンさんにも誰にも、メキメキのみんながやられたりするわけないのん!」
「……ふふ。ありがと。励ましてくれるのね」
クミは、思いめぐらすような間を置いてから、「うん」とうなずく。
「……そうだね。あっちのことは、今の私たちには信じることしかできない。こっちもこっちで正念場なんだしね。気を引き締めないと」
「そうだのん、クミちん。その意気だのん!」
「よぉ~し……。遺物ドロボウ、とっ捕まえよう!」
「のぉん!」
絨毯が揺り動くほどに活気づく少女とネコ。
老大師は、その勢いに添えるようにゆっくり、手持ちの
「あれじゃ。あの海岸が、トジロいわくの場所じゃ。ほれ、もう目視もできよう」
クミが目を向けてみると、海岸の並びにひとつ、張り出したような岬があり、その手前に妙に形のよい小山がある。岬の突端には巨大な十字の陰影が見て取れた。小山は話に聞いていたオンジ住民の合同墓で、十字は墓標になるのだろう。
背後でキラキラと輝きだした海原とは対照的に、どこか暗い光景に見えた。
「なんだか……淋しいカンジね……」
「こんな荒れた土地にあんな墓標。盛況じゃとしたら、そっちのほうがおかしいじゃろうて」
「それはそうなんだけど……」
やりとりも早々に、タイバは手元に目を落とす。
「まだ指針釦も真っ赤になりきらんが、近いことは間違いないじゃろう。日が出きってしまえば、空は目立つ。あの岬の付近に降りて、あとは様子を窺いながら探ろうて」
「そうね……。そうしましょ」
「のん」
絨毯は、ゆるゆると高度を落としつつ、海岸に向かう。
まもなく三人は、三十年前、オンジの住民らが葬られた地に降り立った。
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