大師の昏倒と慮外の潜入 1
「クミたちに合流しよう」
王宮本殿をあとにし、
「クミが
「どうして判るの?」
「……シアラは、誰も頼りにしない性根だ。
「何に使う気なのかは知れんがな」と、少年は苦みばしる。
「
「明良、でも……」
美名が言いかけるも、「ここで待っていてくれ」と振り返った明良の言葉のほうが大きく、かき消されてしまった。
「隊の
「……
「判った。唐突に
そこに間の抜けた声で「縄もね」と催促したのは、オ・バリだった。
「縄……?」
「『
「あ、ああ……。あることにはあるが、私物ではない。警護隊の備品だ。持ち出すわけには……」
「固いコトをいうもんじゃないね。不当解任の詫び程度に思って、ひとつやふたつ、調達してきなよ。そのうち、使うことになるかもしれない」
口調は緩やかだが、どこか強迫じみた物言いに、明良は黙って
「明良、私も行こうか?」
「いや……、いい」
美名の申し出を言葉少なで断ると、少年はひとり、駆け出していく。
「明良様は、気が急くばかりですね」
少女の隣に立って、
「ハ行
「……グンカ様は、明良を心配してくれてるんですね」
「美名お嬢様……。いえ、ワ行
「大師の務め……。『
ふっと微笑んだグンカは、「いえ」と首を振る。
「我が師ギアガンより頻繁に聞き及んでいた大師の第一義とは、『自らの旅路を豊かにすること』です」
「大師自身の……、自らの旅路……?」
「はい。それぞれの魔名行の第一人者である大師が、不幸であってはならない。難しい顔をしていてはならない。大師自らが心豊かで余裕に構えていなければ、輩の指標になどなれず、誰をも導くことなどできやしない……」
「ギアガンさんが言いそうな見解だが、耳の痛い話だね」
茶化すように
「美名大師」と呼ばれた少女は、グンカへと目を戻す。
「明良様の焦りを解いて差し上げてください。余裕をお与えになってください。それは、
「グンカ様……」
「我々は、ここに居ります。さあ、時を置かずに」
「……はい」
美名は、力強く頷くと、少年が消えていった方へと駆けていった。
見送る形となったなか、バリが、「『
「あのふたりを見ていると、やきもきするというか、なんだか古傷を
「……そうでしょうか」
「あれ、ならないかな? 自分の過去がいろいろ思い出されて、赤面したくなったり……」
「私は、年少の頃より師のもとで学ばせてもらっていましたから、ああいった方面で思い出すようなことなど、持ち合わせてはおりません」
もとより表情の薄いグンカの顔色では言葉どおりに聞こえはするが、抜け目のないバリは、何かに想い巡らすかのよう、彼が胸元に手を添えるのを見逃していない。「ふぅん」と眼帯の位置を正しながら、バリは、顔をほころばせるのだった。
そこに背後から、「あの」と声が掛けられる。
恐縮した様子のユ・ヤヨイである。
「こんなときにしょうもないことですけど、
あまりに「しょうもないこと」を訊く
「そこらの草やぶでしたらどうだい? 季節でもないから、虫に刺される心配もない」
「え、いや……。できれば、ちゃんとしたところで……」
「ですが、私たちはこの城には不案内で、明良様でなければ、手洗場を見つけるのにも苦労すると思われますが」
「でしたら、僕もあとを追って行ってきます」
大師らが「さすがにそれは」と制止をかけようとするより早く、すでにヤヨイは、美名たちの後を追って駆けていってしまう。
「僕が言えたものじゃないけど、どうにも間の抜けた子だね」
さしものバリも、肩をすくめ、呆れたようだった。
「ハマダリンさんの
三人が走っていった方角を見遣りながら、グンカは「いえ」と首を振る。
その顔にはどこか
「そうか……。じゃあ、僕も
そう言って、バリも、三人が消えていった方向へ歩み出す。
「なんだかんだ言って、僕もそろそろ催しててね……」
弁解のようなことを言っていたバリは、背後でなにやら物音がしたことに気付く。
振り返った先にあったのは、グンカが総髪を振り乱し、地べたに倒れ込んでいる光景だった。
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