投降の勧告と返答 2
『――ト・レイドログ。最後にあらためて申し上げます。どうか熟慮と英断をいただけますよう。貴方がなされたこと、失われた
フクシロの消え入るような言葉尻で、二回目の勧告は閉じられた。
レイドログへの勧告は、以下の手順で行われている。
ここ、ヨツホの教会堂にいるフクシロの言葉を、まずは、ニクリ
波導大師の力量からすれば、ヨツホを含むさらに広い範囲への「伝声」が可能ではあるが、もしも相手の
半刻ほど前、すでに投降勧告の一回目は行われた。今回は、時をおいての二回目。
だが、レイドログからの返答は、今回も――。
「シロサマ。ラァからはやっぱり、『何も聴こえてこない』って……」
「……引き続き、注意を払っていただけますようお伝えください」
勧告のなかでは、レイドログに投降の意志があれば、その場にて
「ラァはちゃんと聴き取れるの?」
姉との連絡を終えたらしきニクリを見て、クミが訊く。
「『包囲陣』ってのも、ひとつの町どころじゃなくて、それなりの領域なんでしょ? 広いぶんだけ、いろんな音が聴こえてくるだろうし……」
ニクリは、ムッと頬を膨らませた。
「ラァはすごいのん! クミちんは甘く見ないでほしいのん!」
「いや、甘くは見てないよ……?」
「魔名術習練の精確点は、ラァはいっつも『優秀』だったのん!
「なにそのワケわかんない競争……。どうやって答え合わせするのよ……」
「とにかく、ラァはすごいのん!」
「……うん、まぁ、その……。ごめんて」
「お詫びに、久しぶりに撫でさせてほしいのん!」
ネコを撫ではじめると一転、満悦顔になったニクリ大師のおかげで、場の空気は少しだけ緩慢にされたが、つと、タイバ大師がしかつめらしい顔をフクシロに向ける。
「フクシロ様よ。期限を決めねばなるまいて」
「期限……」
「返答も得られんまま、ここで宣告ばかりしていてもなにも利益はでん。回数なり時刻なりの期限を定め、小豊囲の状況を知るために動くべきじゃろ」
「すでにいない可能性もあります」とグンカ
「『包囲陣』が敷かれる前、あるいは、そのあとになんらかの手段で、陣のうちからはすでに脱しているおそれがあります。そうなると、この勧告もまさに無益。私も、次の動きを準備、想定しておくべきと進言いたします」
「ほう。お前様も
「……」
「無視をするんじゃない」
そこで、これまでずっと瞑目するばかりだったハマダリンが、おもむろに席を立った。
「教主様。少し、話がある。奥に来てくれるか」
「なんじゃ? 話ならここですればよかろう。儂らにも聞かせられん密談か」
「邪推です、タイバ師。次に向けての話もしますが、主だった内容は私的なもの。いつまでも棚上げにしたままでは集中も散るから、この余白に時間をいただこうというだけです」
ニクリに撫でられつつ、このやりとりを聞いていたクミは、「フクシロ様との確執を解消する気なんだな」と察した。
「承知しました。参りましょう、ハマダリン大師」
「それと、美名」
ハマダリンに呼び掛けられた美名は、「はい」と答える。
「悪いが、
「言伝……ですか?」
「宿に控えているヤヨイに、『帰り支度をはじめろ』と伝えてほしい。やはり、美名には『古代病』の兆候は一切出ないし、こちらは長丁場になるだろう。この件に、アイツの役どころはないことも確実だ」
「帰るって言っても……、ヤヨイさん、おひとりでですか?」
美名は、タイバとグンカをちらと見遣った。
その意図を察したのだろう、ハマダリンは「ひとりでだ」と付け加える。
「勝手についてきたのだ。大師
「でも、ここからだとセレノアスールまでは結構な距離が……」
「ヤヨイにこれから、本気で成長する気概があるのであれば、ひとりで帰ることになろうと、私の
「……判りました」
少し判然としない他奮大師の言い方であったが、美名は言いつけを届けるため、席を立った。小さなネコが、「私も行く」と続く。
「リィも行きたいのん!」
「リィは大事なポジションでしょ。ここに残ってなさいな」
「のん……」
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