焦土の新興地と褐色の少女 1
「なんてことだ……」
尾根を越え、木々が開けて見通しが少しよくなった場所。
イリサワは、「
その状況を一変させたのが、大都王ゼダンの命によって始まった「王立神学館」の建設である。ゼダンは、この
神学館の完成は、年明けて春が訪れる頃に予定されていた。今の時期はまだ、年若い神学者たちがやってくるには早かったが、すでにイリサワの村は
寒村だったイリサワにやってきた建設者らに、村人たちは食と住を提供する。代わりにもたらされるのは、金銭。それだけでなく、大都や他の町からは豊富な食糧物資も持ち込まれてくる。寒村に突如として起きた「神学館好景気」。村人たちのなかには、人口以上に大挙してやってきた建設者らに向けて、もともとの稼業をやめ、商売に乗り出す者も出始めていた。
そんな折の「イリサワ壊滅」である。
大都に届いた報せでは、生き残った者は十名にも満たなかったという。もともとのイリサワの住民は百未満、「神学館」の建設のため、当時イリサワに居た建設関係者は二百を超えた程度。実に、三百を数える魔名の返上。この地にて、未だ詳細は不明なれど、明良が大都に身を置いて以来、最大最悪の惨事が起こったわけなのである。
少年が遠目に見る、ひと際大きな「神学館」。
春には若人の学び場となったであろう残骸。
雪降りのなか、山間で
「急ぎましょう、明良隊長」
「……アナガ」
「雪がもっと強くなってきたら、凍えて死んでしまいます」
警告をくれたマ行の
二日前、奴隷品評会の場に突如として舞い込んだ「イリサワ壊滅」の急報。
大都圏領地をまとめるゼダンは、ひとりで当地に赴く動きを見せたが、報せを聞き及んだ少年もまた、義心のため、随伴することを申し出た。その申し出に
まず、警護隊のほぼ半分で「特務隊」を編成。警護隊の任は「王宮殿と大都王の警護」であるから、大都王の身辺警護のため、共にイリサワに向かうという意味合いでは妥当な分割である。少年は、なにより人手が要るとも考えていた。
それからまもなくして、明良たち特務隊は大都を出発。可能な限りの食糧物資を抱えながら、およそ一日半、寝ずの強行を経てこの地を目指してきたわけである。
(日頃、職務に励んでくれる警護隊の者らとはいえ、
十四の
体力的なものもあるが、なにより、遠く離れた「よきヒト」を無駄に心配させてしまったこと。その言い訳もろくにできていない心労心配のほうが大きい。イリサワやついてきてくれる仲間を思えば、私的な都合のために筆を取る時間など、満足にとることもできなかった。
二刻ほど前にも、「
少しでも早くイリサワに着ければ、休憩も少しは取ることができ、文面を眺める時間くらいは作れるだろう、と、少年は特務隊の面々を先導し、山下りを始めた。
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