演劇の町と大師の生い立ち 3
「母親、か……」
目線を追って背後へ振り返ってみると、どうやら彼女は、壁に掲げられた絵のうち、若い男が描かれた一枚を見ているようだった。
「あの絵のヒトは、もしかして、ハマダリン様の身内の方ですか?」
「リンと呼んでくれていい。私にはそのほうがしっくりくる」
おもむろに立ち上がると、ハマダリンは絵のそばまで歩み寄っていく。
「美名。どうしてそう思ったかな?」
「どことなく……、ハマ……、リン様と似ているように見えます。輪郭とか、口元とか」
「そうか。やはり、そう見えるか」
男の絵は、胸から上が描かれたものである。
着ているのは首元の
「この男は、私の親かもしれないヒトだ」
「かもしれない……?」
「私は
ハマダリンは手を伸ばし、男の頬に添えるように絵画に触れる。絵を傷めたくないためか、その男を傷めたくないためなのか、柔らかく触れていた。
「保護された直後の私は、ただ泣き
「……はい」
「絵を見た私は、さらに大変だったらしい。このヒトの名を呼び、抱きついて、さらに泣きじゃくってしまってな」
美名もまた、父親の顔を知らないがため、男の肖像を感慨深く見入る。
少女が「父」という言葉を思い浮かべるとき、頭には先生の顔が浮かぶ。
彼は実父ではないだろう。
だが、
先生のあの、傷が目立つ顔。
常に余裕たっぷりで、何か
ずっと忘れることはないだろうが、あるいは、このように絵にしてみるのも先生を探すうえで役立つかもしれない、と思いついたところ、美名は自らの
「クミ、どうしたの? うんうん
「美名と違って、私のお腹は丈夫よ」
「私のお腹も丈夫だよ」
口先を尖らせる美名に、「そうじゃなくて」とクミは続ける。
「なんかねぇ。こう、喉に出かかるものが……」
「え? まさか、病気がクミに……」
「いや、
「もう。はっきりしないなぁ」
「う~ん……?」
少女とネコとが判然としないやりとりをしていると、ハマダリン大師は「さて」と言ってヤヨイ少年へと身体を向ける。
「そろそろ刻限だな。聞いているか、ヤヨイ?」
「え……? ええ。少し前にルマさんが慌ててやってきて、それで聞きましたけど……。本当にやるんですか?」
「やる。セレノアスールを騒がせた詫びをしなければならん。皆、心待ちにしていたようで、口々に『いつ再開するのですか?』と訊かれたものだよ。劇員の者らはしっかり稽古していただろうな?」
「それは、言いつけられてましたから。ですが……、本当に大丈夫ですか?」
「私の心配をしてるのなら問題ない」
「ヘヨウが来るまで、あと二刻以上。いずれにせよ、時間を持て余す」
ヘヨウとは、この第八教区に所属するカ行
普段はこのセレノアスールよりずっと北、
美名とクミの大都行きに同行することを決めたハマダリンは、このコ・ヘヨウを呼びつけていたのだ。島伝いに休憩を取りながらではあるが、動力術を使い、空を行き、大都までおよそ三日。船で行くよりもずっと早い行程に、美名たちも喜んだものだった。
「美名たちにもぜひ、セレノアスールの歌劇を観てもらいたいからな」
「はい。拝見します」
「私もそれ聞いて、ちょっと楽しみにしてたんですよね」
「よし、私も準備にかかる。久々の
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