少女と彼女の真名の芽吹き 2
「これより、ワ行
集まった住人らの顔をひとりひとり眺め渡す演説を終えると、ハマダリンは、
大師の願いはしかと聞き届けられたのだろう。大師の姿が見えなくなっても、群衆は静けさを保ったままである。
「ふぅ……、ぅくッ!」
寝台まで戻ってきた大師は、やおら布団へと倒れ込んだ。
「大丈夫ですか?!」
すかさずに美名が手を貸し、大師の身体を抱え起こす。
「さ、サン……、く、ゴホッ!」
言葉の途中から、ハマダリンは
美名や参集した住人らの手前、咳ひとつも我慢してきたのだろう。それがついに限界を迎えたのだ。
(絶対に、この
美名は、黙って大師の痩せこけた背中をさすり続けた。
「……すまなかった」
いくらか呼吸の調子も落ち着いてきたハマダリンは、
「自分の身が思う通りに動かないのは悔しいものだな。
美名は椅子を引いてくると、寝台に腰掛ける大師の前に座る。
少し息遣いが荒いハマダリンと少女とは、お互いに見つめ合った。
「……始めてくれるか」
「はい……。クミ」
少し離れたところにいたネコが、「ン?」と短く答える。
「近くにいてもらってもいいかな? なんでだか、クミが傍にいてくれたほうがうまくいく気がする。『
「……判った」
ネコが膝の上に跳び乗ってきてから、少女は手のひらを上に向け、大師へと差し伸べる。ハマダリンは小ぶりな手のひらに自らの手を重ねた。
「為します」
「……頼む」
少女の手で光がほのめきだし、大師の手に伝わる。
煙が昇るように、腕、体、頭、足先――黒い光が、大師の全身を取り巻いていく。
「おい、あれ……。大丈夫なのか?」
見守る
無理もない。
黒い光でハマダリンが包まれる様は、一見すれば
だが決して、その黒い光は悪意の
「ワ行・
少女の詠唱があっても、明らかな変化は
しかし、当事者らはすぐに気が付く。
まずは、ハマダリン。
地に引かれるような身体の重さ、
少女の劫奪術を疑っていたわけではない。
だが、いかに他奮の術を受けようと変わることのなかった病状が、途端に快方に向かっていく。気丈の性根であっても、その変化には大師も目を丸くした。
そして、美名。
彼女は自身の「物貰」の魔名術が、「黒い光」が立ち消えたときに完了すると知っている。術がけ相手の「悪い物」をすべてもらい終えた合図が、劫奪の光の消失なのである。
だが、光が消えず、まだ中途であるというのに、障りは強くやってきた。
体が重い。頭が働かない。喉奥がからむ。数日前に殴られたかのような鈍い痛みが体中で
(こ、これが……、ハマダリン様をずっと
「く、うぅ……」
ついに、劫奪の少女の口からは小さな
「……美名? ちょっと?!」
「う、ぅううぅ……」
「美名、奪いきることはできないか?!」
歯を食いしばりながら、少女はぶんぶんと首を振った。
だが――。
(重すぎる……! けど……、けど! 私はまだ!)
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