少女と彼女の真名の芽吹き 1
夜半からの晴天は、明け方を迎えてもそのままでいてくれた。
昼になれば雪もだいぶ解かしてくれるだろう、気持ちのよい
教区館の敷地から海際までには短い幅の護岸道がある。ヒトが四人ほど横に並んで歩けば、
それだというのに、この道には押しつ押されつ、人々が詰めかけていた。
隣や後ろ、前の者と口々に
すべて、セレノアスールの住人。
このような事態にあるのも、未明のセレノアスールに「ラ行・
『ハマダリン大師は現在、
これのため、大師の
一方、
白
「失礼します」
「します!」
人いきれの寝室に、少女とクミの姿が現れる。
戸口から見渡したふたりは、
そんなふたりへ、寝台のうえからはハマダリン大師が微笑をくれる。
「やあ、いい顔になった。短い間だが、よく眠れたようだな」
寝台の傍までやってきて、美名は「はい」と
「『
「そうか。返却の確認は? 終えてきたかい?」
これにも美名は、「はい」と頷いた。
「切り傷で試させてもらいました。ほかの
「オーケイ。それならよし」
「大師様のほうは……、いかがでしたか?」
丸椅子に腰をかけず、立ったままだった美名は、周囲を素早く見渡す。
他奮の者たちに
美名の察しを
「我ながら情けないことだ。あらためて、これだけ多くの
「……私の目からは、昨夜からずっと、大師様はシャンとなさっているように見えます」
「気を張っているだけだ。それももう、長くは
弱音のような言葉に、大師の衰弱を垣間見た気もする美名。
だが、ハマダリンはすぐさま元のとおりに威儀を正すと、「いいか?」と厳しい顔つきになる。
「危ないと少しでも感じたらすぐに術を解くんだ。そうして、試したとおりに病を私に戻せ。
少女は無言で頷く。
「では、始めよう、と言いたいところだが……」
言葉を濁すと、ハマダリンは
その窓からは、朝日とともに、がやがやとざわめく喧騒が絶えず入り込んできている。大師の身の上を案じ、集まって来たセレノアスールの住人ら。
「こうもうるさいと集中できないだろう、美名?」
「え……? あ、いえ……」
少女の返答を待たず、ハマダリンは寝台から立ち上がった。
聞いていたところによれば、大師は寝台から起きるのも辛くなっていたはず。今、少女が目の当たりにしても、その立ち上がる姿は
しかし、少女や他の者らが差し伸べようとする手を制し、ゆっくりと歩み出すと、ハマダリンは窓際まで進んだ。実に
窓を開け放ち、姿を見せたハマダリン大師に、集まる住人らは一気に沸いた。
曙光の日差しもあり、眩しげに目を細めながら彼らを見下ろすハマダリンは、このときばかりは、と背筋を伸ばし、大きく息を吸いこむ――。
「
大師の一声は、群衆の騒ぎをぴたりと止めた。数千に及ぼうかという人々の喧騒を、波の音がはっきりと聴こえるほどに静まり返らせた。
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