白の町と書店 2
「教区長はどなたにもお会いになりません」
町の段々並びのもっとも
絵画や弦楽器、奇抜な
もしや、このヒトがヨ・ハマダリン
「そ、そん……、え……?」
「出し抜けに失礼いたしました。
執務部長といえば、教区運営における最重要の役職である。ルマと名乗った老婦人は、慌てて立ち上がる美名へ、手の甲を向けた挨拶儀礼をくれる。
「わ、私は……、
「存じ上げております。ワ行
美名とクミのふたりへ、素早く目を配せるルマ執務部長。
半年前のコ・ゼダンとの青空会談の直後、「てれび放送」により、魔名教会教主フクシロは「
以来、旅で訪れる先々、対面したヒトに自己紹介する前に「君がワ行の大師か」と言われることも少なくない。寒村の年端もいかない子どもでさえ「ワ行のおねえちゃん」を知っており、アヤカムかと身構えることもせず、クミを撫でまわそうと手を伸ばしてくる。
すでに認知されており、初対面でもおおむね良好に待遇してくれるのはよいのだが、逆の場合ももちろんあった。身分を明かす前から不自然に素っ気なくあしらわれたり、
さて、眼前のルマ部長がどちらなのかといえば、美名にもクミにも
「教主様もたびたび、いらしてくださいます。ですが、一日いようと、二日お待ちになろうと、教区長は絶対にお会いになりません。気を落とされながら、お帰りになられます。それは、あなた方でも同様です」
「……ハマダリン大師に、私たちが訪ねて来てることは、お伝えいただけたのでしょうか?」
「はい。あなた様が来たことを伝えた上での、教区長のご返答です」
「リン様の意志が変わることは、ないと思います」
「……美名」
見上げてくる相棒に目を落とした美名は、ものを言いたげ、心配げにしているネコの顔に、むしろ気を取り直させてもらったのだろう。フッとえくぼを浮かべると、「行こうか」と軽い調子で言った。
クミを抱え上げ、室の入り口まで歩いていくと、美名は執務部長に面と向かい、「また来ます」と微笑んだ。
「もしも、明日の朝日が気持ちよければ、大師さまのお気も変わられるかもしれません。また、お願いにあがります」
少女の姿に目を
彼女はもう一度、手の甲を掲げ上げる。
美名も手の甲を掲げ、おたがいに触れさせ合う――。
「ご滞在なさるのでしたら、部屋を用意しますが」
「いえ、大丈夫です。自分たちで宿を探すのも、楽しいので」
「そうですか。今は、観るべき物が開かれておりませんが、それでなくとも、セレノアスールはよい所です。ご滞在のあいだ、ぜひに堪能なさってください」
美名はお辞儀すると、クミとふたりで室を辞していく。
ひとまず、ルマ部長は「ワ行劫奪の少女」を悪くは思っていないよう。「他奮大師と会えなかった」という結果があっても、そのことをなぜか嬉しく感じ、廊下を行く少女の足取りは軽かった。
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