白の町と書店 1
「『ワ
「……なんか、借金してるみたいでイヤなカンジね」
「う~ん……。『
「『カ行
秋に種を
見渡す限りは農耕地であり、向かう先に阻むものはなく、視界は広い。空は
夏から比べ、肩にかかるまでに銀髪が伸びた少女の懐中では、小さな顔を出して、ネコがひとつ、大きな
美名とクミのふたりは、第八教区の教区都、セレノアスールを目指す道中にあった。彼女たちがこの都市を目指しているのには、三週ほど前に理由がある。
この年の夏の終わりに、「新任のワ行
特に定める目的地はなく、人里があれば立ち寄り、
『申し訳ないのですが、美名さんにお願いしたいことがあるのです』
「
「真名
教主が伝え聞く限り、また、美名たちが旅のなかの噂を聞く限り、ヤ行の第八教区では暴動が起きてるわけでもなく、統制は非常に良好に保たれているようだ。教会への税の上納も変わらずにある。ただただ、教区の長、ハマダリン大師が頑なに会ってくれない、というのだ。
「真名」に賛同か、否定か。他奮大師は教区運営や魔名教会、居坂について、どのように志向しているのか、直接に面会して意見を聞きたい。
それをさし置いても、フクシロ――スピンという少女にとって、ハマダリンとは、
そこでフクシロは趣向を変えてみようと思い立ち、美名に声を掛けた。「美名とクミ」。ヒトの
快諾した美名は、滞在していた第四教区から、隣接する第八教区へと進路を向けた。それが三週前のことである。
第八教区は
「もう。文句ばかりつけてないで、クミには何かいい案ないの?」
「……『ワ行レンタル』とか?」
道すがらの暇つぶしなのか、「ワ行劫奪」の「劫奪」は印象が良くないから、何か他にいい「
「
「む、むぅ……。小生意気に育ってきちゃって……」
「口が軽いネコさんには、これから少し、厳しくいこうと思ってます」
「何のコトか判らないけど、何のコトか判らないくらいに思い当たるフシばっかりだから困るわ……」
そうこうするうちに、平らかだった道から緩やかな下りの傾斜へと入った。ふたりの眼下に海と町の景色が現れる。
「キレイな町ね。写真でしか見たことないけど、地中海とか、エーゲ海とか、そんなカンジ……」
「これで晴れてたら、もっとキレイなんだけどね。前に来た時は、たぶん、春の晴れた日だったかなぁ」
まだ点景ほどに離れているセレノアスールは、「白い町」であった。
海岸線に向かって傾斜が下っており、それに沿って段々と家が建てられている町の造り。
しかし、今の季節は冬。空では雲が垂れこめている。暗い
「さて、頑固なヤ行の大師さまは、会ってくれるのかねぇ……」
「クミ。話を
「ううむ……」
ふたたび歩き出した少女に催促され、ネコは
出してきた
「逆に考えてみてはどうでしょうか、美名さん」
「……逆?」
「『劫奪』はすでに、ワ行の
「ふむふむ。もっともです」
「ですから逆に、印象のほうを変えるのです」
「ほう。『印象を変える』とな。その真意は何ですか、クミさん?」
「美名さんが行く先々、ぶらり旅のなか、みんなの
「……なるほど」
「劫奪の名前を、いい印象に変えるのです。美名さんが! そのおててで!」
「おててで! なんだか可愛いので採用!」
「サンキュー!」
「ですが、使える劫奪術が『
「サンキュぅ……」
言葉遊びの果て、少し意気を落とした様子のふたりではあったが、灰色の雲からふわり、ふわりと白い雪が落ち始めてきたのを見つけると、少女は一転、鼻歌交じりの上機嫌になる。
白い町をさらに
町の囲い壁を眼前に据え、少女とネコは道を進んでいく。
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