第四章 東西戦端

少年 大都編

よきヒトと手紙 1

明良へ。


 今日は海からの風が強くて、すごく寒くて、クミと一緒に震えながら歩いてました。クミってば、最近は私の懐のなかがお気に入りみたい。合わせのところからぴょんと顔だけ出してて可愛いんだよ。だんだん、冬も深まってるね。大都は寒くないかな。


 あたらしく就けられたっていう王宮警護隊長の職務はどうですか。「隊の長」ってくらいだから、手下もいたりするのかな。明良が誰かを指導したり、引率したりする姿はあまり想像できません。しようとすると、なんだか笑えてきちゃう。

 悔しいけどアイツの統治はやっぱり上手で、大都の治安はいいとは聞いてるけど、危険な出動とか起きてないかな。明良ならたぶん大丈夫だとは思うけど、万が一が心配です。二週前の手紙で聞いて以来、あなたは事務的なことしか書いてくれないから、少し、他愛ないことでもいいから、知りたいな。


 私とクミの方は、寒かったのは寒かったけど、今日の旅路も順調。もう少しでセレノアスールに到着します。明日か明後日くらい。

 おとといに伝えたとおりで、今回のセレノアスール行きはいつもみたいにふらっと立ち寄るわけじゃなくて、教主様からの直々の、大師としての仕事だから、近づくにつれて緊張しています。教主様の呼び出しも、往訪も、頑なに拒んで会ってくれないってことだけど、それで私が上手く、他奮大師様と面会できるかしら。クミはいつものとおり、「ダイジョブでしょ」と気楽なものだから、私ひとりで気を揉んでます。


 そういうクミは、今日立ち寄ったユゲンっていう村で、またお客さんを「げっと」してたよ。それも、三人も。

 クミの「マナ保険」の説明はだんだん上手になってきてるみたいで、何度も聞いてる私でもいつも聞き入っちゃう。「保険」の仕組みははじめて聞くヒトには難しいみたいだけど、アヤカムのせいでケガしたり、急に病気したり、療養のために稼業ができなくなった経験のあるヒトほど、やっぱりうなずくところが多いみたい。今日のお客さんも全員、そういう体験があったヒトだったわ。

 「神世の稼ぎ」がうまくいきはじめてるのは何よりだけど、明良に手紙するよりタイバ様にお客さんの情報を伝えることの方が多くなってきてるのは、なんだか可笑しいです。それでも毎晩、あなたにどんなことを伝えよう、どんなことを書こうと考えるのが、今の私の、いちばん大事で、大好きな時間。

 

 冷え込みと雲の低さからすると、こっちは明日、雪が降りそうです。

 今、思いついたんだけど、セレノアスールの件が終わったら、大都に向かってみようと思います。ちょうど、年始節の頃合いになるだろうから、年の初めに明良とクミとで、ふわふわと降ってくる雪を眺められたら、なんて考えが浮かんだわ。今からとても、楽しみになってる。


 また明日、手紙します。

 本当、律儀に週に一度じゃなくて、毎回に返信くれてもいいんだけどね。でも、無理はしないで。明良が書きたいときに、書きたいことを伝えてね。それで私とクミは充分、嬉しくて安心します。

 あとは、寒くしないようにだけして。おやすみ。 


美名より。

私の心を込めて。

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