太古の礼拝殿と司教 9

 大都だいと神国しんこく


 「大都」という名の国の歴史は古い。だが、その内実は執政者、執政形態が次々と変わっていった激動の国である。


 起こりは明確ではないが、千八百年ほど前まで、「大都」は世襲の王制国家であった。代々の国王は魔名術での武力を重んじ、この王政期の末期までで大都大陸の南半分を国領として拡大、治めた。


 しかし、千八百年前に第一の変革が起きる。

 「大都」王族に対する反乱蜂起である。

 領土内、東方の有力者が先導して起きた反乱。「大都」は強力な中央集権で、拡げた領土に対しての施政が杜撰ずさんであり、冷遇が過ぎたことが主な要因である。このような扱いであったから当然、反乱の芽は各地に、おおいに内包されていた。東方で起きた武力決起が端緒となり、大都国全土に拡大。ついには王族の粛清、政権の転覆に至る。


 つぎに「大都」の名を冠した国は、「大都連合国」。

 政治形態は各地の有力者(「こう」または「国候こっこう」と呼ばれた家系)による議会制であった。引き継いだ国土内、地方ごとの諸侯が延べ二十人弱、協議会を開いて施策し、「大都」国家を運営していく。前例における失敗、王族による独裁と暴走を憂慮したがための政治形態である。

 だが、これもまもなく瓦解。

 この議会制は、必然、王制打倒に勲功があった国候の発言力が強く、横暴が過ぎた。自らの領地に関して、税収、国庫支出面での優遇を当然とし、私腹を肥やし、武力を強化していく。なかには、自領土に遷都しようと画策する者まで出る始末。諸侯がお互いを牽制し、国内での内乱が常態化するまで百年もかからなかった。


 この時期にあったのが「福城遷都せんと」である。戦争の武力として魔名術を用いてはいても、魔名教自体にはさして執着のないこの時代、「大都連合国」は易々と「魔名教会本部の移転」を見過した史実がある。


 そうこうするうち、ひとつの強力な国候が現れ、内乱をすべて平らげた。

 「統一聖戦」と後に自らが呼称する争いを勝ち終えると、この候はふたたびの世襲制王国家を「大都」にく。

 第二の変革、「大都神国」の建国である。


 この「大都神国」は先史における王制国家と同様、武力を重んじ、領土拡大を国政の旨としたが、先の国とは明確に違う点があった。

 それが、「魔名教」を用いての民意掌握である。

 建国した国候の家系自体は、他の候と比較すれば歴史が浅く、起源も判然としない。だが、それをいいことに、魔名教の発祥の地とされている「大都」と自らを紐づけ、「主神ンの末代」、「全能の血」、「居坂を導く正統」と自称したのだ。

 本来よりも主神という存在にに改変してはいたが、魔名教を国教とし、民には教戒の遵守を徹底させた。人々が主神を崇め、転じては同格である大都王家を敬うよう、刷り込んだのである。

 建国当初は前体制からの名残で内紛も多かったが、百年も経てば、この国政は成功していた。地方への配慮が厚く細やかだったということもあり、魔名教に敬虔となった国民は王族とその施政におおむね従順で、「大都神国」の領地も順調に拡大されていった。次の変革が起きる直前、千年前の段階では、大都大陸の全土を国領としたほど。


 しかし、第三の変革が起きる。かの大戦、「大都戦争」である。


 当時の大都神国王、ダイト・ン・ゾンダ・ソ・ワイガルは、大陸全土に及ぶ国内が安定したとみるや、王家代々が密やかに嘱望していた国策に乗り出した。

 「魔名教会の奪還」である。

 この時期、魔名教会本部がある福城ふくしろはすでに「魔名教会の町」となって四百年弱と歴史も長く、安定していた。

 しかし、魔名教を国の根幹と標榜する「大都神国」としてはこれは面白くない。唯一絶対に崇敬されるべき「大都王家」とは別に、「教主」という存在を立てている「教会本部」が邪魔で仕方がない。

 ゆえに、「大都神国」は「教会」を奪還、あるいは壊滅させるべく、福城や、に染まった本総大陸の各都市に対し、圧力を強めはじめた。


 必然、福城や牽制を受けた各都市は警戒しだす。

 「この『魔名教会の返還要求』と『信仰の否定』は、かの武力国家、『大都神国』がついに本総大陸さえも侵攻の標的にしだした兆候である」。


 大都の大陸よりも広い本総大陸。史上にたびたびの戦争はあったものの、この時期の本総大陸は比較的に平和な状態にあった。しかし、それがゆえ、各都市の武装は貧弱。大国である「大都神国」に個々の都市国家では対抗できようもないことは歴然であった。

 それがため、当時の魔名教教主が先導してった対策が「本総同盟締結」である。本総大陸の有力都市国家の三つ、「福城」、「ヘヤ」、「かみ水源すいげん」を主軸とした、連帯同盟の結成。

 「魔名教会は移転しない」。

 「我々は真っ向から対抗する」。

 「大都神国」に対し、そう宣言するのに等しい歴史的事変。


 かの大国は当然、受けて立つ。

 同盟締結の報を受けてまもなく、「大都神国」の軍勢が本総大陸に上陸したところより、「大都戦争」の火蓋は切って落とされた。


 二十年に及ぶ大戦であった。

 前半は本総大陸を、後半は大都大陸を舞台とした居坂全土の戦禍。内実は省くとして、結果だけを述べるなら、「大都戦争」は「大都神国」側の敗北に終わる。開戦当初、国力の時点で優勢と見られていた「大都神国」は、次々と都市国家が参集していく「同盟」の抵抗に疲弊を重ねていき、遂には首都である大都の攻勢陥落と相成ったのである。


 捕らえられた王族は一族郎党、すべて粛清。皮肉にも、王制の「大都神国」は、初期の大都国と似たような末路となった。

 終戦と同時、導入された魔名教会による教区制に伴い、「大都神国」の領土は解体、組み込まれる。大都の町自体はひとまずは教会の預かりとなり、大戦以降、二百年もの時間をかけてゆっくりと「大都神国」の名残は消されていった。

 そうして、大都が今に落ち着く姿は「魔名教会の直轄都市」。教会が存続する限り、「大都」が自治の権を取り戻すことは、事実上、不可能となったわけである。


 以上が「大都」という国、「大都」という歴史の概略であった。

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