太古の礼拝殿と司教 10
「
「
話の遠大さに気をとられているのか、死活の場であるのは相も変わらずだというのに、美名と
「罪業深き本総同盟はその悲願を無下にし、幾多の人命を失わせる争いへと至らせた。我が領土を荒らし、我が大都を焼き、我が一族の首を
「……そんな勝手な」
ゼダンの暴論に言葉を失う美名のそば、明良が「何故だ?」と声を発した。
語りに
「……何故、千年前の貴様が今、この居坂に生きていられる? まさか、古代大都の王が、真に神の血族だったなどとでもいうのか?」
口の端を歪め、ゼダンはフンと鼻で笑った。
「あながち間違いではない……。私は、居坂の『新しい
「やはり、貴様も『
明良の問いに一瞬だけ目を
曙光が差し始めた丘の上、少年の言が実に馬鹿らしいとでもいうよう、拍子のずれた笑いであった。
「……貴様、ヤツと面識があるのか? 『転呼』も教えられているということは、あのヒト嫌い、よもや少年趣味でもあったか?」
「……下劣め」
「こちらの
歯軋りする明良に代わり、今度は美名が「
ピクリと眉を動かし、ゼダンは少女に目を向け直す。
「教主様から聞いてた、『客人の
「カイナをあのようなアヤカムと一緒にするんじゃないッ!」
美名の言葉がよほど気に障ったのか、ゼダンは忘我して怒声を上げた。
だが、強い突風のような怒気にあてられても、少女と少年は頑としてゼダンを睨みつけたまま――。
「『カイナ』が……、アンタの謀略を手伝った客人の名前なのね」
「小娘ッ! 他の何を置いても、カイナを、彼女を! 彼女の博愛を! 謀計などと見下げることは許さん!」
胸に当てていた手を、ゼダンは美名に向ける。面相は
咄嗟に「嵩ね刀」を構えた美名の眼前、ゼダンと少女の間に割って入るよう、明良が身を乗り出した。
「なるほど。貴様が、客人の何かしらの
少年の淡々とした口調で我に返ったのか、ゼダンは掲げていた平手をゆっくりと胸元に戻す。その様子からして、司教はまだ「術解除」を終えていないよう。
だが、彼が話し始めてからすでに多くの時が経っている。「
「それでなぜ、『魔名解放党』の騒ぎになる? なぜ、教主フクシロや俺たちを咎人に仕立て、追いまわすことに繋がるんだ?」
「……判らないか? 判らないだろうな。餓鬼どもには」
フンとひと笑いを見せ、ゼダンの嘲る顔はますます深まる。
「最も魔名教が大きくなった時、最も被害が少ない方法で『大都』を復古する。それが我が上策だ」
美名と明良のふたりは、ゼダンの目的を聞き及んでも得心がいかない。
呆けたように目を丸くした。
「最も……、魔名教が大きくなった時だと?」
「その通り。居坂千年を経た今この時、魔名教は史上で最も広く、深く、居坂の人々に浸透している。このために、司教として私は、布教と定着に幾百年も費やしてきた。機は今を置いて他にない。首をすげかえるのは、
「……被害が少ない方法ですって……?」
「まさしく。意志薄弱の性質、罪過に走った教主フクシロを公然の場、衆目の下で処し、私が実質の魔名教の代表となる。間をおかず、汚名となった教主職を廃し、主神信仰を認可し、全教徒を帰依させ、魔名教の版図をまるごと、大都神国として変貌させる。当然、私が君主だ。新生大都の初代にして永年の王が私だ」
わなわなと震え始める美名たち。
「この策であれば、死ぬのは数十人から、多くて千人程度だ。ひとたびの会戦で万の規模の魔名が返上された千年前とは違い、実に平和的であろう?」
震えるふたりを
「私の大望は! 我が一族の悲願は! カイナの慈愛は! ようやくに現実となるのだ! 居坂の民はそのとき、永遠の王にして、主神ンの現身にして、最上の為政者! この私! ガルボラ・コ・ゼダンを
歓喜する男の背後では、ちょうど、日が昇りだした。
後光差す一個の人間の姿は、神意を身に
長らく当てられたままであった手。
ゼダンは「幻燈術」を解き、全快している――。
「くだらない」
「くだらんな」
日光が後押しするような神々しさなど意に介さず、少女と少年は声を揃え、男を否定した。
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