ネコの決意と司教の正中 1
「
「最下層」からの脱出ののち、少女らは回廊を上り続けた。
途上、「争いを失くす」ことはできなかった、とだけを端的に聞き及んだ一行は、「
「十日の
相変わらず定感覚で現れる横部屋を素通りし、少女らは駆け続けた。
駆けどおしで辿り着いた「反射が消える場所」。その横部屋は、
これなら、なんとか「十日の猶予」に間に合う可能性がある。
しかし、その
比べれば体力が劣るフクシロはもちろんだが、魔名術を使いどおしだった波導姉妹も、もともとの体のつくりが長距離を走り続けるようにはできていないネコも、皆、倒れ込むようにして動けなくなってしまった。
不気味な穴は残るが、誰言うでもなく、一行は「六十五番目の部屋」で休息をとることにしたのだ。
疲れのために食事は喉を通りづらかったが、無理矢理に詰め込むと、寝入る前にとクミが「
神と居坂と客人の真実。
一同は息を呑んで話を聞き終えた。
「これで、話は全部。私が変えてきたルールは、『もうこれ以上、変理で居坂がメチャクチャにされませんように』……」
「クミちん……」
「皆には、申し訳ない気分でいっぱい……。『争いを失くす』って意気込んで、こんな危険なトコロに来てもらって、散々、助けてもらって……。その結果が、居坂で頑張ってる皆にとって、あんまりな内容が判っただけだった……」
ポロポロと涙を零して、クミはフクシロに顔を向けた。
「ごめんなさい、フクシロ様。ごめんなさい……」
「クミ様……」
フクシロはクミにそっと近づくと、彼女を抱え上げ、座る自身の膝の上に置いた。
「何を謝罪することがありましょう。おそらくクミ様は、史上最も、私たち、居坂の
自らも落涙させ、泣きじゃくるネコをおもむろに撫でるフクシロ。
「人々に寄り添う、慈悲深い神に最も近しい存在は、と問われたなら、少なくとも私にとって、それはクミ様を置いて他にありません」
「フクシロ様……」
片手はクミを撫でたまま、フクシロはもう片方の手で自らの目元を拭う。
そのまま膝元のネコの目も――と手を伸ばしかけたフクシロだったが、それは思いとどまったようだった。
「さぁ、クミ様。泣くのは止めましょう。私たちには、泣いている
「……はい」
フクシロの言葉ではないが、「慈悲深い神が顕現したなら」――。
それは、川べりに立つ、美名を装った無表情の者ではなく、今、目の前で泣き笑いしている金色短髪の麗らかな少女であろう、とクミは思った。
「私、決心したんです。その決心が揺らがないよう、今ここで、宣言させてください……」
「クミ様……」
「私、元居たところ……、『神世』ではもう、死んじゃった身です。大切なヒトたちがいっぱいいるけど、その世界では、それが私の最期だったんです。何も、私だけじゃない。大事なヒトを残したまま、無念のまま死んでしまったヒトなんて、私だけじゃなくて、いっぱいいる」
ゴシゴシと自らの目をこすり、ネコは顔を上げた。
「それなのに、私だけが生き返ろうだなんて都合が良すぎる。それこそルール違反だわ。私は、私の大事なヒトたちの幸せを願って、ただ願って、『神世』の未練を断ちます」
フクシロの膝の上から、ネコは見渡す。
滝のように涙を流しているニクリ。
口を曲げ、目を潤ませているニクラ。
そして、優しく微笑むフクシロ。
「魔名もない。美名や
「クミ様……」
「私の決心、聞き届けてください。口は悪くてやかましいネコですけど、どうか、仲良くしてやってください」
頭を下げるネコ。
各々、
クミ。
別の世界から、この居坂に現れた「客人」。
彼女はこの「天咲塔」にて、前世と
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