天咲塔の二日目と未知のアヤカム 2
「三十五番目の部屋」を過ぎて半刻ほどは経ったであろう頃。
(それにしても、『
沈黙ばかりが続くのをいいことに、ニクラは昨夜の密談の内容を
(「転生」は「魂の旅を経て
「でも」と思い、ニクラは前を行くキョライの背中を見る。
(「遡逆」というのはいったい何? 何のこと?)
「遡逆」。
日常では使われない言葉である。
この言葉でニクラが唯一思いつくものといえば、「魔名教典」内の逸話、「
この話は主神ンの数ある活躍
「主神はヒトが住まう村里の度々の災難に憐れみ、その御手を振り、神剣を振り、幾度も救われた」。
これのみである。
特筆すべき点も、注釈を差し込む余地もないことから、説諭や教典研究の対象にさえならない話である。
この話で気になる点をあえて挙げるとすれば、「
この短文の何が「遡逆」――「
(キョライの目的、「遡逆の
「……ン?」
考えていたニクラの視界のなか、キョライがふいに立ち止まった。
やむを得ず、少女らも足を止める。
「急に止まらないで。どうしたの?
「……うら若き
「……うるさいわね」
「それに、
「ゲッ、それって……。でも、言われるとキョライさん、トイレに一度も行ってないわね」
ニクラは「
「なんで止まってるの? 早く行きなさいよ!」
「いえ……。前から何か、気配が……」
回廊の奥は変わらずの暗闇が続く。
「何かって……、何だのん?」
ニクリ
「『骨をむしゃぶったアヤカム』かしら?」
クミは前方を見据えて呟く。
「それもイヤだのん!」
「何かは判りません。ですが、ホラ、気が乱れている」
キョライはニクラの
風など吹くはずのない地中。であるのに回廊にはわずかに空気が流れているようだった。
「実体がある相手なら
「まさか、『
「迷い
混乱しつつあるが、いずれにせよ不穏な状況。
最前のキョライ、その次にニクラ。そのすぐ後ろ、震えながらのニクリ。
魔名術の熟達三人は前方に平手を向け、身構える。
「確かに……、何か来るわ……」
クミの小さな眼には、魔名術者たちの背中の向こう、
「ひぃい! 迷い魂、怖いのん!」
「違うわ! あれは……」
回廊の奥から迫りくるのは、黒。
両翼を忙しく動かし飛び来る、幾十匹にも及ぶアヤカムであった。
「何アレ? 鳥? 虫?」
「いや、少し様子が違うようです」
「あれは……、『コウモリ』じゃない?!」
クミは黒いアヤカムの正体を叫んだが、他の者には「コウモリ」がピンと来ていない様子。
「んもう! 『コウモリ』も居坂にはいないのね!」
「クミ、あのアヤカムはヒトを襲うの?!」
「判んない! 判んないけど! もう来てるよ!」
「コウモリ」の群れはわき目もふらず、一行に迫りくる。
鳥とも違う、虫とも違う、禍々しい形状の翼をはためかせ、目も鼻も判然としない毛むくじゃらの顔で目掛けてくる。
黒い風のような「コウモリ」の先頭は、こちらの先頭のキョライまで、あと十歩分まで来ている――。
「なんだか不気味だのぉん!
ニクリ波導大師の平手から雷光が
雷の矢は回廊を照らしつつ、「コウモリ」を襲っていった。
「やった?!」
「いや、まだです!」
撃ち落とされたのは十数匹ほど。アヤカムの大半は健在であった。
「それどころか……」
さらに、「雷矢」の光が照らし出した現実。
それは、今しがた撃墜した「コウモリ」の数などは比べ物にならない、回廊全体を埋め尽くすほどの「コウモリ」が後続する光景であった。
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