夢乃橋事変の少年と名づけ師 4
「すみません、
明良の背後でクメン師が申し訳なさそうに
「穏便に説けたはずなのに、不手際を……してしまいました……」
「いや……、師に非はない。俺が頭巾を被っていたとしたら、こうも上手く橋の上に集められていたかどうも疑わしい……。それに……」
黒髪の少年は、月光の下で不敵に笑った。
「こうなった方が、俺としては判りやすい。……師も構えてくれ」
「……はい」
クメン師は
鞘から抜かれた「
彼が下がったのを確認すると、明良は「
「……さぁ、どうした! 伏せるのか、向かい来るか、はっきりしろ! 貴様らの信念はその程度のものか!」
明良の
変わらず、困惑したまま立ち尽くす者。
おずおずと、その場に膝をつきだす者。
そして、
「河に逃げれば死ぬぞ!
その
「それでも逃げたいヤツは逃げてしまえ! 降伏の意志のある者は後ろに下がるんだ! 残りのヤツらは……いつまでまごついてるつもりだ! 来るなら早く来いッ!」
橋の上で選り分けられるように、ゆっくりと、群集はふたつに分れていく。
下がる者と、その場に残る者――。
「クソ……」
「バカにして……」
数十人ほどの残った者は、
その光景に半ば嬉しそうな含み笑いをすると、明良も高欄から飛び降りた。
数十人と、「夢の橋」の上、対峙する――。
「……ゲイル」
背後で立ち尽くしたままの友人に、明良は刀を構えたまま、目を向けないまま、声をかけた。
「お前はどうするんだ?」
「……」
「黙って見てるだけか?」
「……俺は……」
ゲイルが答えを言う前に――。
「ふざけるな! カ行・
解放党のひとりが、戦端を切った。
その
「
「サ行・
「タ行・
「ハ行・
「マ行・
「ヤ行・
「ラ行・
小さな橋の上では平手の光がいくつも発して、夜景の中に明るんだ。いくつもの魔名が、星空に響く。明良に向け、魔名術の多重が襲い来る――。
「
一喝した明良の剣閃は、炎と氷の雨を撃ち落とした。
続けざま、横方向から突如高波が現れる。波間に見え隠れするは、
「ただの水だッ!」
「アヤカムは私が!」
橋上をさらうような波が過ぎても、微動だにしない明良。クメン師は明良の背後につけ、彼の身体にまとわりつき始めていた「襟巻靭」をすべて切り落とした。
「うぉおぉおッ!」
加えて驚くべきは、その数。明らかに多すぎるのだ。男、女、老いに若き。橋の上で術を放った者の数より、向かい来る数の方が圧倒的に上回っていた。
しかし――。
「軟弱を
黒髪の少年は上下左右、縦横無尽に跳び、多勢の突進を
すれ違いざま、明良は蹴りを放ち、刀の柄尻で小突きもしていた。相手が幻であれば、それで
そこにすかさず、クメン師が「六指」で斬りつけるのであった。すると、彼らはそのまま眠るように倒れ込んでしまう。
これには、「六指」の特性が利用されていた。
神代遺物・六指――その特性とは、「斬りつけた者を六本目の指が如く、意のままに操ることができる」。
クメン師はこの特性を用い、少しばかりの切り傷を与えた相手を「即座に眠らせ」、戦闘不能にしているのだ。
魔名術の矢を躱し、撃ち落とす。
身体強化の猛撃を、難なくいなす。
襟巻靭のみならず、羽虫や鳥も迫るが、あっという間に払い落されるか、他愛ないと看過される。
橋上の戦いは混然として、それでいて鮮やかであった。月と星の明かりの下、極上の剣舞が披露されているかのよう。投降の勧めを受けて橋の後方に下がっていた者たちの中には、
主役は、黒髪と金髪の男ふたり。たったふたりに、解放党の反抗者はその数をみるみるうちに減らしていく――。
「どうやらニクラも、熟練の魔名術者も、この中にはいないようだ!」
「……いえ、明良さん! 様子がおかしいです!」
後方からのクメン師の声に、明良も足を止め、
今や、立つ者も数えるほどになっている橋の上、奥の方で三人、円陣を組んでいる様子――。
「何だ? 何をしているんだ、アレは……?」
円陣を組んでいた三人は、いっせいに平手を向けてくる。
「同志は下がれ!」
「
「『
六つの平手が光る――。
(合詠?!)
平手から発せられたのは火炎であった。
(この火勢は……マズい! クメン師と離れすぎた!)
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