夢乃橋事変の少年と名づけ師 5
猛々しい魔名術の炎が、
(……下はアヤカムの群れだが……、やむを得ん!)
「クメン師ぃッ! 河に……」
言いかけた明良だったが、そのとき、クメンの前に飛び込んできた人影があった。
「ゲイルッ?!」
明良の旧友、ゲイル。彼は、クメン師を
「サ行・
「
「クッ……!
猛火に
「っ……!!」
予見通り、明良の身が炎に巻かれることはないものの、これも予見通り、火勢を殺しきることはできない。
「遮」も圧される火勢だが、明良は歯を食いしばって耐える――。
(この勢い……ッ! シアラの……、いや、
「
なんとか耐えきり、明良はすぐに振り返る。
炎の猛撃は、後方のゲイルとクメンのふたりを襲っている
「ゲイルッ! クメン師ィッ!」
「ぐ、おお、ぉおぉッ?!」
猛火は激しく、
「……クソッ!」
明良は駆け出した。
後方にではなく、前方。術者の三人に向け、迫った。
(頼む、耐えきってくれ! 今、最もマズいのは、ふたりが追撃されることだ!)
向かい来る少年の姿に術者三人はたじろぎ、それぞれに「
(さっきの術じゃないのか?!)
「……ならば、
致命的にならないとはいえ、「
明良は振り返る。
「焔神」の火は消え去っており、辺りは静まりきっている。
クメンとゲイルは元の位置に立ってはいなかった――が、焼失したというわけでもない。遠目ではあるが、元いた位置でうずくまってでもいるようだった。
明良は素早く辺りを見渡す。
まだ数名は残っていたはずの抵抗者たちは、
明良たちの攻勢によりもともと気絶していた者たちは、低い位置で倒れていたのが幸いしたのか、「焔神」の直撃を受けてはいない。だが、まったくの無事というわけでもない。その身をいくらか
「……『
肩で息を吐きながら、奥の方で縮こまっていた投降者たちに明良は呼び掛ける。
三、四人、おずおずと手を挙げる者たち。
「……お前たちの同志だ、すぐに治癒してやれ! ひとりはコッチだ! ……早く!」
言って、明良は
「ゲイル! クメン師!」
「
駆け寄って明良は、ふたりを見下ろす。
「……ゲイル!」
ゲイルを抱え込むようにしていたクメン師は、
一方、ゲイルの衣服は焦げ落ち、表皮が露わにされている。見るも痛々しい
「ゲイル、お前に
身を
「……サ行の魔名……、もう、響かせる……気は……なかった……のに……」
「死ぬな!」
「く、くふ……。サ行……、治癒力強化……」
詠唱の直後、ゲイルの身体がほのかに光る。
見ている間に、水疱はゆっくりと引いていき、焼けた箇所は少しずつ、新たに皮を張っていくようだった。
「ゲイル! 死ぬんじゃない!」
「うるせぇな……、何度も……」
目を
「死なねぇ……よ……。しぶといのが……、
駆けつけた「ヤ行
明良の目には、その傷ついた寝顔が
「ゲイルさん……。感謝に
「……俺は……、お前を誇るぞ、ゲイルッ!」
クメンはゲイルを強く抱き、明良は彼の手を強く握り締めた。
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