酒飲み場の通りを歩く少年たちと最悪の光景
ともすると、拘束される可能性も考えられ、そして、その際は「魔名解放党」の根城内だろうが抵抗する心積もりをしていた
「我らの集まりは強制でも暴徒でもない。明良くん自身の意志で参加しなければ、『
「……」
「……まぁ、ひとまず考えてみればいい」
そうして明良は、ゲイルとふたり、秘密集会の地下室を持つ
「ひやっとしたぜ……」
夜の
「お前もなかなか短気だからな。暴れ出すんじゃないかと……」
「……ゲイル」
黒髪の少年は立ち止まる。
「経緯を聞かせろ。あの集会に参加するようになった、経緯を」
相手の友人も立ち止まった。
下を向いた顔は、重々しい色を浮かべている。
「お前が村を出て行ったあと、俺もすぐヤマヒトを出たんだ。最初は、『
「……親父さんと喧嘩したか?」
「……それもあるが、大元は……、なんだろうな。『これでいいのか』ってずっと思ってたんだよな」
「『これで』……『いいのか』……?」
「歩きながらにしようぜ」とゲイルが言い、ふたりは軒酒屋ばかりが連なる道を、並んで歩きだす。
酒飲み場から聴こえてくる喧騒。
肩を落とすように並び歩く、ふたりの少年。
ほんの数歩を隔て、左右の光景に流れる空気は、朝と夜ほどの違いがあった。
「ウチは伐採業ってことは知ってる。俺の『
「底……」
「俺の旅路は、このまま行けば決まりきってる。親父みたいにヤマヒトの村で木を伐り続けて、誰かと夫婦になって、子を育てて、いずれ魔名を返す。親父の姿が俺の未来なんだって、いつの間にか思うようになってた。そして……、それがイヤになった……。だから、『大都』で……大きい町で、色々試そう、自分がしたいことを見つけてみようと思って、村を出て来たんだ」
明良は複雑な気持ちを抱いた。
「記憶がない」明良からすれば、故郷である村があり、拠り所である家族を持つゲイルのその言葉は、なんとも贅沢な
しかし、安易にそんな言葉をかけられはしない。
隣の友人の面持ちは、ひどく沈んでいたからだった。
「明良はクルナの村って、知ってるか?」
「あ、ああ……。ヤマヒトから近い村だな。『大都』に向かう道で通りすがる……」
「そう。俺もそうだった。『大都』の町に向かう途中で立ち寄った。そこで俺は、トジロ様っていう名づけ師と出会ったんだ」
(トジロ……。またその名か……)
「トジロ様は『名づけ』のためにクルナの村にいたんだが、それとは別に、村の若いやつら相手に『主神の教え』を広めてたんだ。誘われて俺も、興味半分で参加してみた……」
「名づけ師が……異端の教えを広めていたのか……」
「異端じゃないさ」
ゲイルが言い切る言葉は、強いものだった。
「『魔名は不要だ』、『ヒトは皆、主神のみの加護のもと、等しく旅路を歩んでいける』……。魔名に囚われない『自由』。自分自身で稼業を、旅路を、誰もが選んでいける『平等』……」
「……」
「『コレだ』と思ったんだ。俺のやりたいことはコレだ。俺みたいなヤツが、俺みたいに悩まなくて済む、自由と平等の世界を作る。
「……ゲイル……」
ゲイルは立ち止まって明良に向き直ると、その肩口を掴んだ。
「『
「ゲイル……」
「お前になら判るはずだ! 魔名教はもう、人々を導きなんかしやしない! 支えになんかなりやしない! 居坂には、本当の神様が必要なんだって!」
「ゲイルッ!」
明良の怒鳴りで、ふたりは睨み合いながら黙りこむ。
道脇にも張り出している屋外席の軒酒屋の客たちも、何事かと好奇の目を集めはじめてきた。
「……俺たちの仲間になってくれ、明良」
静かな誘いを無視するように、今度は明良が「歩こう」と促した。
また元のように、ふたりは歩き出す。
「……俺は、魔名教には何の
「だったら……」
「だが、俺が決して見過せないのは、誰かが傷つくことだ。私利私欲、ただ自分のために画策する何者かのせいで、誰かの平穏が犠牲になることだ……」
明良は赤髪の大師の姿を思い浮かべる。
思い浮かべるだけで、歯噛みしたくなる相手――。
「被害は出さないとあの黒頭巾は言ったが、『烽火』とやらは、本当にヒトを傷つけないのか? 『魔名教を打ち倒す』とやらの過程で、誰かが不幸に見舞われないか?」
「……」
「あり得ないと……俺は思う」
明良は顔を上げた。
その表情は、
「俺は……止めるぞ……。『烽火』を」
「……無理さ」
「無理だろうがなんだろうが、俺の心が止めると決めたんだ」
黒髪の少年は立ち止まり、虚空から隣人へと顔を向ける。
相手は応じず、明良を置いて行くように、ただ足元を見ながら歩みを進めていく――。
「……ゲイル、お前はあの集まりから抜けろ」
「……」
「いいな、ゲイル! 抜けろ!」
去り行く友人の背を見つめる明良。
その心中には、友人に向けて「
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